第三話 魔法

「……世を写す鏡よ、ここに現れたもうて我が記憶を見せよ」


そう男が唱えると、空中にディスプレイのようなものが出現し、映像が流れる。


『報告!第二騎士団陣形壊滅!防衛ラインを一段引き下げました!』

『……ちっ。冒険者部隊は!?』

『奮戦中ですが、ポーションが切れたら撤退するとのことです』


場所は戦場の司令部だろうか。天幕の中には悲痛な報告が次から次へとやってくる。

一際高級なデスクに構える筋骨隆々の男は、各所からの報告を忙しく捌いていき、戦況のコントロールに勤めている。


映像の視点は、将軍のすぐそばで立つ人であった。


と、どこからか法螺貝を思いっきり吹いたかのような音が響く。


『将軍閣下!ここからも引き上げを!』

『仕方ない、か……司令部を引き払い、A地点へ行くぞ』

『はっ』


慌ただしく人が動き始める。“将軍”と呼ばれた筋骨隆々の男は、憂いを持った表情で天幕の外へと歩き出す。


『……将軍、お気をつけください」

『……ふん、誰に言っている』


将軍は天幕の入り口をめくる。すると、遠目に異形の怪物の姿が顕になった。


悍ましい赤黒く蠢く肌に、体毛のように生えている気味の悪い触手。あちこちからぎょろぎょろと目がのぞいている。

体表からは得体の知れない液体が滴り落ち、地面を腐らせていき、そして新たな怪物を産んでいっている。

全体的に人型を保ってはいるが、それさえ嫌悪感を掻き立てる材料でしかなかった。


絶えず火や風の魔法が降り注ぎ、さらに剣や槍、弓などで攻撃されてはいるものの、全く聞いている様子はない。


『このままでは、世界が終わる』


と、怪物の肌が一枚、脱皮をするようにずるりと剥がれ落ちる。

剥がれ落ちた皮の下は、明らかに前のそれより進化していた。魔法をさらに通さなくなり、最早、意に介すことすらない。


「……お分かりいただけましたかな?」


そこで映像は終わり、尊大な調子で男が部屋を見渡す。


召喚されたうちの何人かは青い顔で頷き、何人かは首を傾げている。

少し苛立ちを交えた表情で、男は説明をする。


「怪物は今、自己進化を続けている。それが限界に達すれば……この世界など、簡単に滅ぶだろう」


それを聞いて、首を傾げていた人達の顔も青くなる。


「……それが限界に達するのは、いつのことなんですか?」

「……分からん。十年後か、あるいは明日かもしれん。いずれにせよ、できるだけ早く討伐する必要がある。だからこそ、英雄となりうる諸君らを召喚したのだ」


場に重苦しい沈黙が降りる。


「……俺はやる。やってみせる!」


それを打ち破るように、金髪の少年がそう言った。


「ほう。君のような少年を、まさに英雄というのであろうな」


そんな調子で尊大な男が褒める。

それに気をよくしたのか、金髪の少年は立ち上がってさらに宣言する。


「俺があの怪物を倒す。みんな協力すればできるだろ?な?」

「……え、ええ!」

「できるな」

「そうだな」


召喚された男女は口々に同意する。

一応、俺も同調しておくことにする。


尊大な男はそれをどこか無機質な目で見ながら、次のステップに移る。


「それでは、諸君らのステータスを鑑定させていただこう」


男はそう言って、魔法使いに合図を送る。


次の瞬間、空中に七枚のディスプレイが現れ、俺を含む召喚された七人全員のステータスが表示された。


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