第9話 前世が戦死した日本兵だったと語るミャンマーの少女

「過去世が現地で戦死した日本兵だったと語るビルマ(現・ミャンマーの旧国名)の少女の事例」の資料がようやく段ボール箱の奥から見つかったので、前回予告していたやや理論的な話の前に、この話をしてしまいます。


 1977年のこと。アメリカの精神病理学専門誌『神経精神疾患研究(Journal of Nervous & Mental Disease)』に、「性別違和の東南アジア流解釈:その例証となる事例報告」という題の、一風変わった論文が掲載されました。

 

 筆者のスチーヴンソンはヴァージニア精神科教授で、超心理学者としても知られた人物。性別違和(gender dysphoria)とは、自身の生まれついた生物学的性別に甚だしい違和感を抱き、異性への変身を願って悩み、社会的な不適応をもきたす状態のことを言います。

 

 スチーヴンソンによれば、生物学的素因による説にせよ、両親の養育態度といった心因・環境因説にせよ、病因の説明としては不十分です。そうして、「ヒンズー教徒や仏教徒の間では性別違和の解釈は単純である。つまり、前世で逆の性別であった結果だというのである」として、前世で日本兵であったことを記憶しているというビルマ(ミャンマー。以下、原文のビルマをミャンマーに変える)の少女の事例について、自身の三度の調査行にもとづいて報告に入るのです。


 マ・ティン・アウン・ミヨがミャンマー中央部のナ・ツール村で生まれたのは、1953年のことでした。

 4歳のころ、飛来した飛行機を見て異常にこわがり、それ以来、村に駐屯していた日本兵だった前世で連合軍の飛行機の機銃掃射を受けて戦死した時の記憶を、徐々に語り始めたのです。

 北日本の出身で、結婚していて子どもがいた。軍隊では炊事兵で、戦死の時期は日本軍がミャンマーから撤退を始めた頃で、山になった薪のそばで炊事を始めようとしたとき襲ってきた敵機に、鼠径部を撃たれて即死した‥‥等々。そうして、しばしば、日本へ帰りたいと泣くのでした。

<この項、続く>

 

【参考文献】

 Stevenson, I. (1977). Southeast interpretation of gender dysphoria: An illustrative casereport. The Journal of Nervous & Mental Disease, Vol. 165, 201-208.


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る