第4話 憑依による転生の『異世界薬局』
妹を病で亡くしたことがきっかけで薬学の道に進んだ研究者が、過労死する場面から物語が始まります。
「おはようございます、薬谷先生‥‥今日は‥‥
‥‥先生‥‥?」
薬谷完治 享年三十一
死因 急性心筋梗塞
典型的な過労死 常に患者を想いながら患者の傍らにいることもなく 自らを養生することを忘れていた薬学者の人生は こうして終わった
はずだった‥‥
「‥‥う‥‥ん‥‥」
「ファルマ様‥‥ お目覚めになられました?」
バッ
「きゃ‥‥あっ いけませんファルマ様!?
ファルマ様は雷に当たってしまわれたのです‥‥思い出せます‥‥?」
「雷‥‥?」何を言っているんだこの少女は?研究室を出た記憶もないのに何で俺が雷に当たるんだ?
そうだ研究‥‥実験の途中だったんだ‥‥大学に戻らないと‥‥
なんだこれは!?これは俺の手‥‥?(子どもの手が視界に入る)
「あらあ もしかしてファルマ様 記憶が混乱しておられます?」
少女が差し出す鏡には、見知らぬ少年の顔‥‥
「ファルマ様は ファルマ・ど・メディシス様でございます‥‥」
(『異世界薬局(1)』(高野 聖 (漫画), 高山 理図(原作)、 MFC)
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これがイントロ。どうやら少年ファルマが雷に打たれた瞬間に、いってみればファルマの魂を弾き飛ばして、異世界から薬谷完治が転生してきたらしい‥‥
これなら、異世界に「ファルマ少年」の肉体が無から出現するといった、質量保存則を侵犯する不合理な設定なしに、異世界転生できます。
おかげで、ファルマ少年の元々の家族(都合の良いことに王宮薬剤師という家柄でした)に会うたびに、中身が別人格になっていることをごまかす破目になるのですが‥‥
こういった、すでに出生済みの異世界の人格が(たいてい子どものうちに)死んだのに乗じてその肉体を乗っ取るという形での転生は、スチーブンソンの研究書では「憑依」事例に分類され、実例もいくつか挙げられています。
最近のマンガでも、
『凶乱令嬢ニア・リストン 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録(1)』 (南野海風 (漫画), 古代甲(原作)、ガンガンコミックスUP!)がその部類に入ります。
それは、死にかけている4歳の貴族令嬢を救うべく呼ばれた魔術師が、反魂の法を使って死んだばかりの武人の魂を入れて生き返らせる、という設定になっています。
異世界転生というより、同世界未来転生+転性ですが、いちおう筋道立っているため、なんとなく「合理的」に感じられます。
この二つの作品の合理性は、『聖者無双』のばあいのように、物理的身体の「無からの突然の出現」という、物理法則上の無理を犯していないところにあります。
代わりに設定されているのは、『異世界薬局』の場合は、魂という形なき質量なき何かの異世界への転位でした。
『凶乱令嬢』の場合は、肉体が滅びた直後で漂っていた魂の、魔術の法則(?)に従った別の肉体への転位でした。
どちらの場合も、物理的世界の質量保存則は維持されているのです。
けれども、ここで根本的な疑問が生じるのです。
どうして、最初から宮廷薬師の子息ファルマとして、あるいは貴族令嬢として誕生する、という設定にしないのでしょうか。
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