第23話 彼は私のもの
朝日を迎えた。
京子は目を覚ますとゆっくりと背伸びする。
昨日は大胆な行動をしてしまった。
自分とは思えないほど積極的なアプローチだ。
隆一君はまだ寝ている。
首元にはキスマークがついてた。
顔が熱くなるのが分かる。
「私がつけたんだよね」
明里と隆一との間に何かがあった。
それは二人の様子を見てすぐに分かった。
明らかに互いを意識している。
それだけで危機感を持つには十分だ。
そして、隆一君と接触したときに気づいた。
女性特有の甘い香りがしている。
明里ちゃんの匂いだ。
嫌な予感がした。
もしかしたら二人の距離が大きく縮まったのかもしれない。
胸が痛んだ。
内側から暗い感情が湧き出てくるのが分かる。
このままだと駄目だ。
そう思い、彼を自室へと誘った。
彼への告白は良い機会だったのかもしれない。
私が本当に恋をしていると知ることが出来た。
これで迷いなく進める。
初恋の人はとてもカッコよくて優しい。
気遣いが出来て努力家でもある。
でも、過去に大きなトラウマを抱えていた。
私は両親に恵まれたから、今も不自由なく暮らせている。
でも、隆一君は違う。
壊れてしまった家族に囚われている。
家族と夢を失った気持ちは本当の意味で理解できない。
だから、これからはもっと近くで寄り添うことを決めた。
「隆一君...」
反応がない。
可愛い寝顔をしている。
昨日の言葉を思い出した。
俺に京子を拒むことは出来ない。
一緒に過ごした時間は無駄じゃなかった。
彼は私を意識してくれていたのだ。
心が満たされた。
自分に好意があると分かっただけで十分な成果だと思う。
私はベットに潜り込み、彼へと身を寄せる。
この幸せな時間が少しでも続くことを願った。
「隆一君、そろそろ起きてください。」
「ん、もう少し寝かせて」
「駄目です。朝ごはんを食べましょう。」
「朝ごはん?」
あれから数時間が経った。
そろそろ起こさなければいけない時間だ。
「んー」
大きく背伸びをして声を上げる。
彼はまだ寝ぼけているらしい。
疲れが溜まっていたのかもしれない。
もし、一緒に暮らすことになれば毎朝この姿を見ることが出来る。
そう思うと、彼を独占したいという強い感情が私を支配していた。
「ほら、顔を洗ってきて下さい。待ってますから。」
「わかった。」
目を覚ました隆一君と朝食をとった。
昨日のことを思い出して少し照れくさかったけど、彼との時間はそれ以上に幸せに感じた。
私は、美味しそうに食べる様子に見惚れてしまう。
一生懸命作った甲斐があった。
じっと見つめる私に気づいて、恥ずかしそうにご飯を口にする。
そして、一気に飲み込もうとしたのか苦悶の表情を浮かべた。
喉を詰まらせたみたいだ
慌てて水を飲んでいる。
一緒に生活していると、こんな一面を見ることが出来るのだと嬉しい気持ちになる。
すごく可愛い。
家を出ると決意したときは不安があった。
迷惑に思われたらどうしよう。
拒絶されたら私は壊れてしまう。
そんな恐怖があった。
変な話だと思う。
彼はそんなことをしないと分かってたのに、万が一のことを考えている。
人間が不安に思うことのほとんどは無駄だという話を聞いた。
それはあらゆる危険から身を守るための防衛本能みたいなものらしい。
知識として理解はしても実際に体験してしまうと受け入れられないと思い知らされる。
どこまでいっても私は臆病なんだ。
そんな私が初めて欲しいと思ったのは隆一君だ。
一緒にいて楽しいし、どこか似ているところがある。
過ごした時間が短いが、良好な信頼関係を築けていると自負していた。
何故かと聞かれれば分からない。
でも、私の直感がこう言うのだ。
何としても彼を手に入れろ
悪魔の囁きだと思う。
でも、私はその直感に従うことにした。
もう想いは伝えてある。
彼は私を意識している。
ライバルは手強い。
明里ちゃんが大胆で嫉妬深いことは知っている。
あれだけはっきりとマーキングするくらいだ。
独占欲が強いと嫌でも分かる。
私だってそうだ。
あんなことをされて黙っていられるほど優しくない。
隆一君を通して意思表示はした。
三人の生活はちゃんと守るつもりではある。
彼女も性格上そうすることは知っている。
でも、それ以外は遠慮するつもりはない。
彼は朝食を終えてすでに帰っている。
もっと一緒にいたかったけど我慢した。
拘束するのは駄目だ。
負担になるようなことをお願いするつもりはない。
......いや、まだその時じゃないと言うのが正しいのかもしれない。
物語はまだプロローグを終えたばかりだ。
大胆かつ慎重に進めていくつもりである。
「彼は私のもの」
誰もいない部屋で静かに呟いた。
これは小さな決意表明だ。
絶対に隆一君を渡さない。
私を奮い立たせる魔法の言葉。
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