第22話 俺たちはマセている

「さあ、寝ましょう。」


ベットに潜り俺を招き入れるように手を差し出してくる。

理性が狂いそうな誘いだ。

相手が京子だからなのかもしれない。


「お邪魔します。」


ゆっくりと彼女の隣で横になる。

女性特有の甘い香りがした。

とてもじゃあないが寝れない。

気を紛らわせるために会話をしようと考えた。


「京子って大胆だよな。俺の勝手な印象だけど、恋愛ではゆっくりと関係を築くタイプだと思ってた。」


「その考えは間違ってないですよ。今回が特別なだけです。隆一君はモテますから......」


「...そんなことないと思うけど」


「心当たりが無いとは言わせませんよ? あなたが告白された話は学校では有名です。仲の良い私たちにすら噂話が流れてきました。」


「すごい情報網だな。正直、怖いと思います。」


「ふふ、みんなは王子様が誰と付き合うか気になってるんですよ。」


「京子たちだってそうだろ。冬姫と結ばれるのは誰だって話を男子はよくしてる。告白した奴までいるくらいだからな。」


「知ってたんですね。」


「なんか見張られてるみたいで嫌だよな。」


「もう少し自由が欲しいなとは思います。」


京子とはいつもこんな感じで話している。

ついさっき告白されたとは思えないくらい会話が弾んだ。

すぐ隣に彼女がいる状況に違和感を覚えつつも、安心している自分がいるのかもしれない。

俺たちの関係にひびが入ることが怖かったからだろう。

最悪な結果にならなかったことに感謝していた。


「私たちって不思議な関係ですよね。」


「不思議?」


「出会って4か月で仲良くなって告白までするなんて珍しいと思いませんか? いくら何でも早すぎると思います。」


「そうだな。」


確かにそうだ。

普通はもっと時間を掛けて相手を好きになるんだと思う。

明里と京子......二人との関係はいくら何でも進み過ぎている。


「俺たちってませてるのかもな。」


「そう...ですね。そうかもしれません。」


これは四人の共通点だ。

明里、京子、真由、そして俺に似ている部分があるとしたら、同年代より達観していて大人びているという点だ。

ある意味生意気な高校生とも言える。

どんな理由でそうなったのかは分からないが、周りと比べて精神的な面で成熟していると感じる機会が多々あった。


自分で言うのも変な話だけど、俺たちは異性にモテる。

同じ学年からは常に注目されていて、話題にされるのも当たり前だ。

特に京子たちは先輩たちの相手もしなければならない。

人間関係については成長しなければいけない環境下にいると思う。


「最初に会った時から俺たちってすぐ仲良くなったよな。今でも不思議に思うんだ。あの時から始まったんだなーって。」


からじゃないでしょうか?」


「似てる?」


「ませてるとも言えますか。子供が大人びているなんて普通は可笑しいですよね。高校へ通うまでに、何かきっかけになる経験をしたのかもしれません。とにかく、私たちは周りよりていた。だから、似たもの同士気が合ったと考えれば納得するかなと思ったんです。」


「そういう考え方もあるか。」


「実はこれにはちょっとしたがあるんです。隆一君の過去を聞いた時に、もしかしたらと思ったことがありました。それは言えないんですけど、私にとっては納得できる話なんです。」


あながち間違っていないのかもしれない。

京子の言う根拠はわからないけど、俺自身も疑問に思っていたことだ。

俺と明里にも秘密があるように、京子や真由にも何かがあるような気がする。


「私が告白をしたのもこの話が関係しています。」


「それは知らなかった。」


「隆一君の近くにライバルがいますからね。私も動かなきゃならないなと思いました。」


「まさか、引っ越してきた理由って......」


「ご想像におまかせします。」


「何故、そこまでするんだ? あまりにも大胆過ぎると思うんだけど」


「大事なものは失ってからだと遅いということです。私としては一人になりたかったからというのもあります。隆一君のことがきっかけではありましたけどね。」


「そういうものなのかな。」


「乙女心は難しいんです。」


「それは同意します。」


難しい話だ。

人の感情が分かれば苦労しない。

異性のことなら尚更大変だと思う。

正直、人の感情を理屈で説明しようとしても個人の性格によって解釈が違うだろうことは大体予想できる。


この子は真面目とか

この子は恋体質とか


その人の歩んできた人生で変わってくるものじゃないだろうか。


「もう寝ましょうか。」


「随分話し込んじゃったな。」


「そうですね。」


京子が俺の首に手を回してきた。

そのまま身体を寄せてくっついてくる。


「近くないか?」


「そんなことありません。こっちを向いてください。」


「これでも緊張してるんだよ。勘弁して下さい。」


「駄目です。断るならいたずらしちゃいますよ?」


「いたずらって......」


今日の彼女は積極的に距離を詰めてくる。

意識をすればするほど理性が持たない。

いたずらの内容が気になるが、京子の方を向くことにする。

目の前に美女がいる状況が信じられない。

明里ともこんなことをしていたと考えると、改めて自分は罪深い男だなと実感した。


「ふふ、近いですね。」


「すごく近い。」


互いの吐息がかかる距離にいる。

ほのかにミントの香りがした。


「よしっ、ちょっと失礼しますね。」


「え?」


俺の首元へ顔を埋めて動かない。

少しすると全身を擦るように体を押し付けてくる。

そして、首元にチクリと痛みが走った。


「すみません。やっぱりいたずらしちゃいました。」


「びっくりしたよ。」


「ごめんなさい。私はもう寝ますね。おやすみなさい。」


「お、おい!?」


満足したのか京子はそのまま瞼を閉じてしまった。

寝つきが良いのだろう。

しばらくすると寝息をたてて眠っていた。


疲れた。


精神的に疲弊していたのか睡魔が押し寄せてくる。

とりあえず寝よう。

明日のことは明日考えればいい。


「おやすみ。」


そのまま俺は眠りについた。


隆一の首元には小さな赤い跡がつけられている。

それも自分のモノだと主張するかのように目立つ位置に......

明里との間に何か進展があったことは京子自身も気づいていた。

だから、彼女は動いた。


彼らの物語はまだ始まったばかりだ。

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