第24話 頼れる人
今日は猛暑日だ。
俺はここ数日のことを思い返していた。
明里と京子の告白を思い返す。
二人は答えを求めなかった。
すぐに返事をすることが出来ないと分かっていたのだろう。
事実、俺はこうして思い悩んでいる。
どうすればいいのだろう。
二人から告白された時点でどちらかが不幸になることは決まっている。
それは蒼井隆一が望むことではない。
一人で考え込んでしまうのは悪い癖だ。
中学時代に嫌というほど思い知ったはずなのに改善する気配がない。
相談相手はいれば苦労しないのだが、身近な隣人は明里と京子だ。
話せるわけがない。
他に頼れる友人がいれば助かるのだが......
.......いや、待てよ?
いるじゃないか!!
二人のことを良く知る仲が良い友達が!!
思い立ったが吉日
俺はすぐにその人物へ連絡した。
「急に呼び出すなんてどうしたの?」
とあるファミレスで待ち合わせをしていた真由と合流する。
店内で向かい合うように座った。
会って話がしたいとだけ伝えてあるので少々戸惑っているみたいだ。
「真由しか頼りになる人がいないんだ。ちょっと相談に乗ってくれ。」
「そういうのは身近にいる明里と京子にお願いすればいいのに......ちょっと待って」
「ん?」
「もしかして...」
真由は何かに気づいたように考え込む。
真剣な表情をしているので邪魔をするようなことはせず、黙って待つことにした。
レモンソーダを飲みながら静かに彼女の様子を窺う。
肩まで伸びた髪をいじりながら何やらぶつぶつと独り言を呟いている。
普段の天真爛漫な美少女とはかけ離れていた。
「もしかしてだけどさ......二人と何かあった?」
間違いであって欲しいという願望があるのだろう。
探るような声色で俺に問いかけてくる。
「実は困ったことになってるんだ。相談していいのかすら悩んでるのが正直なところです...」
「はぁ...わかった。どうせ告白されたとか言うんでしょ?」
「......知ってたのか?」
「知らないわよ。真由は二人から隆一のことをどう思ってるか聞いてただけ。その後に何が起こってるかなんて把握してない。告白されたのね。あーあ、やっぱりこうなったかー」
呆れた顔をしてため息をついている。
俺が知らなかっただけで三人の間で何かを話していたらしい。
「二人から別々に告白をされた。返事はいらないとも言われたんだ。正直、困ってる。俺自身、二人に対して好意があるけど、どちらかを選べと言われても答えが出せないんだ。」
「首元に跡残しておいて何言ってるのよ。もう健全な関係ではないでしょ。いい加減にして。」
「跡? 蚊に刺された跡のことか? 確かに目立つけど、それと何が関係あるんだ?」
「隆一って抜けてるとこあるよね。隙だらけだよ。」
さらに大きなため息をついて諦めたような目を向けてくる。
何故だか申し訳ない気持ちになった。
確かに俺は隙があるのかもしれない。
仲が良いからと油断していたことは事実だ。
結果、こうして助けを求める形になってしまっている。
「明里と京子は出会ったときから隆一に好意的だったよ。真由もそれに気づいてた。三人で話し合ったこともあるし」
「待ってくれ。二人はお互いに俺のことが好きだと知ってるのか?」
「そうだよ。きっかけは真由が作っちゃったんだけどね。」
「マジか......」
「きっと二人とも焦ってたんだと思う。京子は明里と隆一の関係が深まってるって気づいて引っ越しを決意した。明里も京子が本気になったことに気づいた。だから、急いで想いを告げたんだろうね。」
そうだったのか。
競い合うように行動した結果、現状に至ると......
「一応、責任は感じてるんだ。後々、面倒なことになるのが嫌だったから、二人に答えを求めてしまったのは真由だもん。ライバルがいるって分かれば競争になるのは当たり前なのに......」
「真由は悪くないだろ。」
「四人の関係を壊したくなかったから上手く解決しようと思った。どんな結末になっても恨みっこなしにしよって...... でも、油断してた。まさか二人がここまで本気だとは想像もしてなかったの。」
自分が悪いと責任を感じているみたいだ。
俺たちのために動いてくれていたなんて知らなかった。
彼女も必死だったのかもしれない。
感謝こそすれ、恨むなんて以ての外だ。
「現状、王子はどっちかを選ぶなんて出来ないんだよね?」
「うん。」
「じゃあ、もうこの話は終わりにしよ。これ以上話し合っても結果は変わらないんだし。これから一緒に過ごしていく中で答えを探せばいいんじゃない?」
考えても無駄か......
もしかしたら、俺はこの問題を早く解決したかっただけなのかもしれない。
楽になりたかったんだ。
時間が必要だと分かっていたのに答えを出すことばかり考えていた。
俺は想像以上に愚かな男だったらしい。
一人で悩んでいたのが馬鹿みたいだ。
「ありがとう。真由がいなかったら俺たちは今頃バラバラになっていたかもしれない。本当に感謝してる。」
「止めてよ。私、何の役にも立ってないでしょ。」
「そんなことない。俺は間違いなく真由に助けられた。明里と京子だってそうだ。四人の関係は真由に支えられていたんだってようやく理解したよ。」
「分かった!! 分かったからこの話はもうおしまい!! パフェ食べよ。疲れたら甘いもの食べたくなった。」
「俺はチョコレートパフェの生クリーム追加で」
「相変わらずの甘党ぶりね。」
今日で自分の気持ちに整理がついた。
やっぱり、真由に相談して正解だった。
まずは現状から逃げないようにする。
明里と京子にちゃんと向き合う。
でも、結果を急ぐような真似はしない。
俺が気を付けることはこれくらいだ。
高校生活は始まったばかりだ。
これからじっくり考えていこう。
頼もしい相談相手もいる。
もっと、四人の時間を大切にしよう。
これからも一緒だとは限らないのだ。
後悔しないためにもたくさん思い出を作ろう。
「隆一のパフェ味見させてよ。」
「良いぞ、ほら」
「真由のもどーぞ」
「では、遠慮なくいただきます。」
ふと思った。
俺と真由だけで過ごすのは珍しい。
こうして俺たちだけで集まって話すのは初めてだ。
良い機会なので、もっと仲良くするよう努力しよう。
「夏休みは何して過ごしてるんだ?」
「課題やるか遊ぶかのどっちかかな。明里と京子が暇なら一緒に遊んで、それ以外は勉強してる。」
「じゃあ、たまには俺と遊べるんだな。」
「ちょっと、そんなことしたら明里と真由に悪いじゃん。」
「それはそれ。俺は真由ともっと仲良くなりたい。」
「はぁ、いつか痛い目見ても知らないからね。こんな可愛い女の子と遊べることに感謝してよ。」
「ああ、真由が一番可愛いぞ。」
「隆一はいつか誰かに刺されるわね。」
物騒なことを言わないで下さい。
まあ、こうして軽口を叩ける関係も悪くないな。
真由は距離感を保つことに長けている。
だから、一緒にいて楽なんだと思う。
表面上は自由奔放な女の子に見えるが、誰よりも気配りができる。
明里と京子とは違うタイプだ。
「今度、四人で遊ぼうか。」
「良いね。真由は最近流行りのパンケーキ屋さんに行きたい。」
「分かった。帰ったら二人に伝えるよ。」
「ちょっと、変に勘繰られるかもしれないでしょ。今日のことは内緒。こっちで話通しておくから隆一は待機してなさい。」
「了解」
俺は黙って指示に従う。
まだ夏はまだこれからだ。
とにかく休日を楽しもう。
たくさん思い出を作るんだ。
俺たちの高校生活に悔いが残らないようにしよう。
そうすれば、いつか答えが見つかるかもしれない。
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