第4話 働け高校生!!
「よし、サイズも大丈夫そうだ。なかなか様になってるよ。」
「若いっていいわね。青春だわ。」
店長と妻の
二人は夫婦で喫茶店を経営するのが夢だったらしい。
毎日忙しくしているが、楽しそうに働いている。
「明里ちゃん、よく似合ってるわ。これは集客期待できるわね。」
「止めてください、楓さん!! 恥ずかしいです!!」
「あらあら、可愛いわねぇ。」
レジのタブレットを操作しながら二人の会話に耳を傾ける。
女性陣は楽しそうだ。
「楓は可愛い後輩が出来て嬉しそうだ。勿論、僕も隆一君が居てくれて助かってるよ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「君は大人びているね。最近の高校生は成長が早いのかな?」
どうなんだろう?
少し悩んでいたが夏野が思い浮かんだ途端、違うんだろうなと思った。
あいつは大人とは対極にいる。
そこが良い所でもあり、悪い所でもある。
俺自身もそうだ。
大人びているということは、ませているということでもある。
ませガキなんだろうな、俺。
「君たちが真面目に取り組んでくれるお陰で仕事が早く終わりそうだ。今日の賄いはデザートもつけよう。」
「やったー!! 店長、ありがとうございます!!」
「いいんですか?」
「勿論。メニューにあるものは一通り食べて貰うつもりだよ。接客のときメニューについてよく聞かれるからね。これも立派な研修だよ。」
一通りの業務内容は把握したけど、それ以外に目を向けていなかった。
接客業はこういうところもしっかりしておかなきゃいけないんだな。
「厨房は僕と楓が担当するから、基本二人にフロアを任せることになる。負担は大きいと思うけど、たまに楓がヘルプに入るから上手く連携して欲しい。」
「「はい!!」」
俺たちの手際が良かったことで、混雑時には楓さんを厨房に入れることになった。
店内はそれなりの広さなので、明里との連携が必要になるだろう。
「明里ちゃん、隆一君、頑張ってね。」
「楓、僕たちも頑張るんだよ。」
「はーい。」
思えば、あっという間に一週間が過ぎた。
日中は勉強で夕方は研修だったため、気づいたら一日が終わっているといった具合だ。
それだけ必死に頑張ったとも言えるんだろうが、こんな調子じゃ開店してから苦労する。
こればかりは慣れなのだろうか?
「それじゃあ、僕は賄いを作ってくるよ。」
「はい。ありがとうございます。」
店長は穏やかな笑みを浮かべて厨房へと戻っていった。
大人の余裕を感じる。
俺もあの人みたいに動けたらカッコいいんだけど、まだまだ先になりそうだ。
楓さんと明里の談笑を聞きながら、店の内観を見渡す。
本当に良い喫茶店だと思う。
堺夫婦の趣味を全面に押し出しているらしい。
統一されたインテリアがシックな雰囲気を醸し出している。
ここで働けることに感謝しなきゃな。
店長たちとの関係は良好だ。
本当にお世話になっている。
もっと、厳しい労働環境を覚悟していたのもあって、今がどれだけ幸せかを実感しているところだ。
あと、三日か......
気合い入れて頑張ろう。
改めてそう思った。
そして、次の日
「今日、二人にはビラ配りをして貰うよ。」
「ビラ配りですか?」
「一応、周辺地域には広告を依頼してるんだけど、やれることはしておきたいからね。駅前の通りで出来るよう許可を取ったんだ。」
「わかりました!! あたしたちに任せてください!!」
目の前に置かれた段ボールには喫茶
結構な枚数だ。
「仕事をしながら趣味感覚でやっていた頃とは違う本格的な喫茶店か。僕と楓の夢が叶うと思うと感慨深いな。開店まであと少しみんなで頑張ろうね。」
「はいっ!! 隆一君、あたしなんだか燃えてきたよ!!」
「そうだな。俺もなんだか熱くなってる。」
この喫茶店には店長たちの想いが詰まっているんだ。
失敗するわけにはいかない。
「よし、じゃあ行くか。」
「うん!!」
「頼んだよー。」
明里を連れて駅前の通りへと向かう。
「偶然見つけたバイト先だけどさ。ここで働けて良かったって心から思ってる。」
「店長たち優しいもんな。」
「うん。まだ開店前だから気が早いかもだけど。」
「あれだけ練習したんだ。あと必要なのは経験値だけって思えば十分だと思うぞ。」
「実践あるのみだね。チラシたくさん配るぞー。」
「それに関しては心配してない。」
「なんで?」
その答えはすぐわかると思う。
俺の考えが正しければ、絶対上手くいく確信があった。
「喫茶Lavenaです!! よろしくお願いしまーす!!」
案の定、明里は順調にビラを配っている。
受け取る人は男性がメインだ。
俺の目に狂いはなかった。
早速、スカート効果が発揮されている。
そして、俺の方も
「ねえねえ、これからお茶でもどう?」
「良いですね。なら喫茶店はいかがでしょう?」
満面の営業スマイルでチラシを渡す。
「お待ちしていますね。」
「もう、上手なんだから。ありがと。」
女性は上機嫌で去っていった。
明里の担当が男性なら、俺の担当は必然的に女性になる。
高校生から大学生、若いOLくらいの年齢層に受けが良い。
それがわかった俺は、そこをピンポイントに狙って配る。
俺は明里のような大勢からの人気はない。
だからこそ、期待値が高い層を攻める。
「喫茶Lavenaです。」
「あの......連絡先交換してください!!」
「ありがとうございます。喫茶店でお待ちしています。」
たまに来る誘いにアドリブで対応しつつ、あっという間にチラシを消化していった。
「もう配り終わったのかい?」
「思いのほか早く終わりました。」
「やったね!!」
店長はこんなに早く終わるとは思っていなかったようだ。
急いで予備のチラシを取りに行った。
「二人ともやるじゃない。」
「俺はともかく明里は大人気でしたよ。」
「何を言いますか。隆一君だって若い女の子にモテモテだったでしょ。」
「からかわれただけだよ。本気じゃないはず......たぶん。」
「青春ねー。」
楽しそうですね、楓さん。
俺はもうへとへとです。
体力には自信あったんだけどな。
「よいしょっと。二人ともお待たせ。」
「「はーい。」」
この三日間で用意したチラシをすべて配り終えた。
やれることはやった。
そして、今日は開店日である。
授業中もどこか上の空で集中できなかった。
明里もそわそわしているみたいで同じ状態だ。
「楽しみだなー。何飲もう? おすすめ教えてよ。」
「真由が好きそうなのは、紅茶ならピーチティーで珈琲ならキャラメルラテかな。」
「明里さん、スイーツはありますか?」
「あるよー。 抹茶のシフォンとか京子に合うんじゃないかな。」
「私たちも気になる。春名さん、教えてー。」
「勿論、大歓迎だよ!!」
昼休みの教室は明里を中心に女子生徒が集まっていた。
最近はバイトの話題ばかりだったので、クラスメイトたちは喫茶店に興味津々のようだ。
俺の方も男子にそれなりに宣伝している。
「嘘だったんだろ?」
「違うって!! 急な予定が入ったんだよ!!」
夏野が開店日に連れてくるはずだった彼女が急に来れなくなったらしい。
熱が出たそうだ。
「わかってる。誰にでも見栄を張りたいときはある。」
「いるっつってんだろ!! 何回この会話するんだよ!!」
「何度でもだ。」
「おいおい、夏野と王子がまた喧嘩してるよ。今日から開店だろ? 楽しみにしてるからなー。」
「おう。」
クラスメイトともよく話すようになった。
勉強ばかりの毎日だが、高校生活もちゃんと楽しめている。
これからもっと仲良くしていきたい。
そう思える同級生たちだ。
学校が終わった。
俺と明里は足早にバイト先へ向かう。
遂に開店日初出勤だ。
「二人とも早速ホールに入って貰えるかな。大盛況だよ。」
興奮気味の店長に促されて急いで接客に入る。
店内はほぼ満員。
忙しそうにしている楓さんに合流した。
「じゃあ、私、厨房手伝うからあとお願いねー。」
「明里、気合入れていくぞ!!」
「よっしゃ、いっちょやりますか!!」
練習の成果みせてやる。
早速、俺たちは動き出した。
「エスプレッソですね。かしこまりました。」
「お待たせしました!! こちらカプチーノです!!」
「100円のお返しです。ありがとうございました。」
「あたしのおすすめはガトーショコラです。 ビターな甘みがコーヒーに合いますよ。」
「ナポリタンとアップルティーのセットを二つですね。アップルティーは食後でよろしいでしょうか?」
「三名様ですね!! こちらの席になりまーす!!」
目まぐるしく客が入れ替わる店内を俺と明里は必至で回している。
客層は男性:4の女性:6だ。
想像以上に女子ウケが良い。
事前の打ち合わせ通り男性客は明里、女性客は俺が積極的に担当することになっている。
少しでも気分よく過ごしてもらえればいい。
それがリピートに繋がる。
と、楓さんが言っていた。
しっかり策を練っているところが流石だと思う。
静かな接客の俺と元気な接客の明里はバランスが良いらしい。
個性ある接客も売りにしていくべきだ。
と、これも楓さんが言っていた。
「隆一君、忙しそうですね。」
「ああ、嬉しい悲鳴だよ。」
「ここのケーキどれも美味しい。 次は何食べよっかな?」
「お前は食べ過ぎだ。」
「真由ちゃん、また来ればいいんだから我慢しよ?」
「だって、今食べたいんだもん。」
「だーめ、我慢しなさい。」
「京子が厳しい!!」
京子たちも店を気に入ってくれたようだ。
同学年の生徒もちらほらいる。
どうやら噂を聞きつけて来たらしい。
明里を見て鼻の下を伸ばしていた。
やっぱり、スカートのチョイスが良かったのだろう。
俺のセンスが輝いたな。
「蒼井君だよね。クラスは違うけど同学年なんだ。よろしくね。」
「よろしく。バイトの話聞いてきた感じ?」
「結構話題になってたから、気になってみんなで来ちゃった。王子のエプロン姿、すごく似合ってるよ。」
「ありがとう。」
「ほら、やっぱり来て正解だったじゃん。王子のスマイル整うわぁ。」
俺の需要もあったみたいだ。
王子呼びは解せないが集客に繋がっているから目を瞑ろう。
チラシを配ったお姉さん方もいる。
たまに手を振ってくれるので、笑顔で返している。
思いのほか好感触だ。
あとは全力で駆け抜けるだけだ。
俺は全力でフロアを歩き回る。
こうして開店初日は過ぎていった。
「お疲れ様。二人のお陰で乗り切れたよ。」
「今日はありがとねー。」
「お疲れさまでした。」
「明日も頑張ります!!」
定時になったので、店長たちに挨拶をして俺と明里は退勤する。
「お客さん凄かったね。」
「それな。ピーク時は流石にきつかった。」
帰宅中の話題は当然バイトの話がメインになる。
「皆来てくれてたね。」
「うん。ビラ配りって結構大事なんだなって思った。」
「お姉さんたちに笑顔振りまいてたよね。」
「明里だって楽しそうに会話してただろ。」
「ただの接客だよ。」
「俺も接客してただけだし。」
明里と目が合う。
そう言えば、今日は何度もアイコンタクトしたよな。
最初は注文や会計のタイミングが嚙み合わなくて苦労した。
最後の方は目で合図を送れるくらいには成長できた。
「ふふ。」
「隆一君?」
「なんだか実感無くて笑ってた。俺たち乗り切ったんだなぁって。」
「確かに。すごく緊張してたはずなのに気づいたら終わってたよね。」
「今日は成功ってことでいいよな?」
「大成功でしょ!!」
一生懸命練習した。
沢山失敗もした。
そして、今日を迎えることができた。
「いつかさ、今日を楽しかったねって笑える日がくるのかな?」
「どうだろう? その時になれば分かるんじゃないか?」
「それまでのお楽しみだね。」
「だな。」
そう願いたい。
俺はそのために......前を向くために頑張るんだ。
そして、あの過去なんて大したことなかったと心から思えるように...
きっと、大丈夫だ。
高校生活はまだ始まったばかりなのだから。
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