第2話 これも運命?
「こんなことってある?」
「まさか同じマンションだったなんてな。」
俺と明里はマンションを目の前に立ち尽くしていた。
それもそのはず、まさか同じ場所に住んでるなんて想像もしなかった。
驚くのも当然である。
だが......
「考えてみれば当然か。」
「当然?」
「俺らの高校って一人暮らしする生徒が多いわけじゃないだろ? 学校のパンフレットに載ってたマンションって片手で数える程度だし、立地とか学割、セキュリティなんかも考慮したら選べる場所は限られる。近場で良いマンションなんてココぐらいだしな。」
「確かに。言われてみればそうだね。あたしもココしかないって感じだったし。」
「俺としては嬉しい誤算だな。一人暮らしは何かと大変だから明里みたいな仲間がいてくれると気が楽になる。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。あたしも隆一君がいるなら色々助けてもらえるだろうし大歓迎だよ。」
「こき使う気満々ですか。じゃあ、俺も遠慮なく頼ろうかな。」
「このあたしに任せなさい!!」
そんな会話をしながらエレベーターに乗り込む。
明里は3階のボタンを押したようだ。
「何階?」
「......えっと」
「隆一君?」
「同じ階です......」
「...マジ?」
「マジ。」
「部屋は?」
「307」
「あたし306」
「明里......これは運命だと思うか?」
「もうそれ以外思い浮かばないなって驚いてます。」
「ですよね。」
新学期が始まるまでの一週間は引っ越しで忙しかったから隣人が誰とかまったく考えてなかった。
引っ越し業者が出入りしていたから、他にも入居してきた人がいるな程度の認識だ。
あ、部屋の掃除しなきゃ。
帰ってからやろうと思っていた雑用がいくつか思い浮かんできた。
放課後、遊んで帰るなんて予定じゃなかったからな
今日できる掃除だけして後のことは明日考えよう。
俺と明里はお互いの部屋の前まで着いた。
長い一日はこれで終わりだ。
「また明日な。」
「待って、隆一君も携帯持ってたよね。連絡先交換しよ。」
「おう。隣人同士助け合っていこうな。」
「頼りにしてるよ。お隣さん。」
そう言い残して明里は部屋へ入っていった。
部屋を掃除しながら今日を振り返る。
一日目から友達ができた。
自分でも驚いている。
そんな簡単に仲良くなれるわけではない。
時間をかけてゆっくり関係を築いていくものだからだ。
友情とは育むものだと信じてきたから不思議なものである。
明里も真由も京子も話していて楽しいし落ち着く。
まるで長い付き合いの友人と話しているようだった。
あながち間違っていない。
それだけ彼女たちは俺を受け入れてくれていたと感じている。
「掃除終わり。飯食って、風呂も入った。あとは寝るだけか。」
独り言が静かな部屋に響く。
これがずっと続くのか。
寂しくはない。
まだ一人暮らし初日だ。
そういうのはもっと後になってから感じるだろう。
でも...
この静けさだけは慣れたくないな。
あっという間に朝になった。
重い瞼を擦りながら支度をする。
早く寝たはずなのにまだ眠たい。
昨日は色々あったから仕方ないと割り切る。
軽い朝食を摂って登校までの時間をぼんやり過ごしているとインターホンが鳴った。
「おはよう!!」
「明里か。おはよ。朝から元気だな。」
「元気だけが取り柄だからね。一緒に学校行こ!!」
「わかった。まだ早いから入りなよ。」
「う、うん。えっと...じゃあ、お邪魔します。」
「コーヒーとお茶どっちがいい?」
「お茶でお願いします。」
早朝からの来客に少し動揺する。
明里の性格は昨日である程度分かっていたはずだ。
それでも昨日の今日で朝から一緒になるとは考えなかった。
正直、助かる。
別に静かな時間は嫌いじゃない。
でも、それ以上に孤独な時間は好きじゃなかった。
明里もああいう性格だから同じ考えのはず。
行動に移してくれる彼女の存在は俺にとってありがたい。
「ここが隆一君の部屋かー。整理されてるね。」
「最小限の荷物だけ持ってきたからそう見えるかもな。正直、何もなさ過ぎて部屋にいても暇なんだよな。テレビもないし。」
我ながら殺風景な部屋だと思う。
「テレビないの辛いね。あたし静かな部屋って寂しく感じるからテレビは常につけっぱなしだよ。」
「わかる。なんか孤独な感じするよな。」
「そうなの!! だから部屋をたくさん飾り付けして寂しくない部屋にするつもり。ぬいぐるみとかたくさん置きたい。」
明里らしいな。
色とりどりのぬいぐるみが部屋のあちこちに飾られるんだろう。
女の子らしい良い趣味だと思う。
「俺もこのままだと何もないただの部屋になるから、それなりに物を入れたいな。ちょっと高いけどパソコンとスピーカー購入が当面の目標だなぁ。」
「音楽流すだけでも大分違うもんね。あたしも出費多いからバイト見つけないと。」
「そうだった。俺もバイト探さなきゃなんないんだった。」
「出来れば授業が本格的になる前に始めたいよね。慣れるまで時間かかりそうだし。」
「確かに学業との両立が大前提だもんな。」
「色々探してみるつもり。そろそろ時間だし出よっか。飲み物ありがとね。」
良い時間なので二人でマンションを出る。
学校から近いと本当に楽だな。
朝7時を過ぎても十分余裕がある。
明里を家に招いても遅刻する不安もない。
近場を選んで正解だ。
「明里はバイト入れるとしたら、どんなシフトにするつもり?」
「出来れば平日週4にしたいかな。近場なら学校終わって5時から9時くらいまで働けるし。」
「わかる。休日は基本的に自分の時間にしたいからな。俺もバイト入れるなら平日にしようと思ってた。」
「今日、駅で買い物ついでにバイトの求人探そっかな。」
「俺も探してみるか。って、今日荷物届く日だったわ。また荷解きかぁ。」
「面倒だよね。あたしもまだ届いてない荷物あるから忘れないようにしなきゃ。」
なんてことを話していると通学路に来ていた。
同じように登校する生徒がちらほらいる。
不思議なことに視線をいくつも感じていた。
主にクラスメイトと同学年の生徒たちからだ。
大体、察しはついた。
新学期二日目で異性と登校なんてしてたら気になるはずだ。
頼むから面倒事にだけはならないで欲しい。
「今更だけど、あたしたちって目立つよね。」
「まあ、明里は美人だからな。みんな気になるんだろ。」
「ちょっ、冗談止めてよ!! 恥ずかしいじゃん。」
冗談は得意じゃないんだよなぁ。
「り、隆一君がカッコいいからなんじゃないかな。」
「カッコいい......か。具体的にどの辺が?」
「え? その...背高いし身体もしっかり鍛えてる上に、好青年って感じの見た目してるじゃん。髪型だってしっかり整えてるし。」
「俺のイメージした高校生ってこんな格好だったから真似したんだけど、正解ってことでいいのかな?」
「大正解だと思う。」
「明里はモデルみたいだよな。姿勢いいからより美人にみえる。明るい茶髪も似合ってるし、何より目が綺麗だ。」
「何でいきなりあたしを褒めるの!? 顔が熱くてヤバいんですけど!!」
「俺だけいい気分になるのは違う気がしてさ。明里、顔真っ赤だぞ?」
「当たり前じゃん!!」
こんなやりとりをしているせいか、より注目を集めてしまう。
結局、周囲の視線を受けながら教室まで歩く羽目になった。
「なあなあ!!」
席に着くと前の席のクラスメイトに声を掛けられる。
「夏野であってるよな?」
「そう!!
人懐っこい笑顔で挨拶する夏野はどこかそわそわしていた。
「蒼井って春名と付き合ってんの?」
「新学期始まって二日目だぞ? そんなわけあるか。」
「でもよ。俺見たんだぞ。楽しそうに登校するお前たちの姿を。俺以外にも同学年の奴らが目撃してる。新学期始まって二日目だぞ? 何で一緒に学校通ってんのって話だよ。」
見事なカウンターパンチを食らってしまう。
確かに二人で歩くのは傍から見れば不思議な光景だな。
邪推してしまうのも当然か。
「昨日、一緒に遊んだ流れで話してただけだよ。特に他意はないんだ。」
「本当か? まあ、青の王子と春名姫が一緒だったらみんなが注目するのも無理ないか。」
「ちょっと待った。なんだその変な名前は。」
「本人が知らないのも当然だよな。女子の間で結構噂になってるんだぞ。好青年な王子様がいるって。」
そうだったのか。
今朝の明里の話を思い出した。
本心で言ってくれてたんだな。
正直、お世辞だと思ってた。
「そして、あの春名姫だ。初日で圧倒的存在感を示した美女、他クラスでも話題に挙がる程の人気者だ。」
「そんなにモテるんだな、明里は。」
「ちょっと待て。もう下の名前で呼ぶ仲なのか?」
「昨日、一緒に遊んだ明里、真由、京子はみんな下の名前で呼び合ってる。だから、別に浮いた話があるわけじゃないぞ。」
「秋世と冬咲もかよ!! うちのクラスの三大美女ともう仲良くしてるってか? これだから王子は!!」
「その王子呼び止めてくれないか?」
「嫌だね。」
俺は王子なんて柄じゃないんだ。
頼むから勘弁して欲しい。
「とにかく、高校始まってすぐに彼女なんて出来るわけないんだよ。お前だって彼女いないんだろ? そういうことだ。」
「俺はいるよ。」
......なんですと?
「ごめん。聞き間違いだ。もう一度言って貰っていいか?」
「だから、彼女いるって。」
「なんで?」
「なんでって付き合ってるからに決まってるだろ?」
「でも、新学期始まって二日目だぞ? どうなれば彼女が出来るんだ?」
あれ?
何で俺がこんなこと聞いてるんだ?
「俺の彼女とは中学からの付き合いなの!! 女子高通ってるから今会えないけど、中学時代の仲間が同学年に何人かいるから、そいつらに確認取れば事実だって分かるぞ。」
「そうか。じゃあ、その仲間を呼んでくれ。」
「全然、信じてくれねぇじゃねぇか!! こっちが問い詰める側だったのに何で俺が詰められてんだよ!!」
だって、信じられないもん。
「わかった。呼んでくるからそこ動くんじゃねぇぞ!!」
そう言って夏野は教室から飛び出していった。
「隆一んとこは朝から騒がしいね。」
「あんなに勢いよく教室から出る人初めて見ました。」
「俺は朝からどっと疲れたよ。」
真由と京子は教室に着いたばかりのようだ。
夏野との会話の内容を掻い摘んで教える。
「あはは、青の王子ねぇ。」
「笑うなよ。」
「王子のご命令とあらば喜んで!!」
「おい、真由...」
「隆一君も大変ですね。」
「二人こそ大変だな。明里を含めて三大美女だってよ。」
「当然よ!! 真由はこれでもモテるんだから!!」
「真由ちゃんはしたないよ。」
「こんなんで大丈夫なのか? 俺の高校生活......」
「王子!! 連れてきたぞ!!」
二日目の朝は慌ただしかった。
今日はちゃんと授業がある。
進学校なだけあって早速お勉強が始まるというわけだ。
とはいえ、今日は各教科の概要を確認して終わった。
俺としては自由な時間が限られる分、予習と復習が大事だと認識しているので有意義な内容だったと実感している。
「じゃあな、王子。また明日!!」
「王子じゃない。蒼井隆一だ。」
お調子者の夏野とはなんだかんだ仲良くなった。
席が近い上に、俺の人間関係に興味津々なのでよく話しかけてくれていた。
自分が積極的に話すほうではないので、あいつみたいなキャラとは結構話しやすいみたいだ。
明里たちとも軽く挨拶をして帰路に着く。
荷物を無事回収できたので早速荷解きをした。
必要な小物を収納して自室にすべてのものが揃ったことになる。
なんというか
本当に殺風景な部屋だな。
部屋は少しずつ彩るとして、バイト先を見つけなければならない。
ネットで調べた求人はどれも条件に合わず、少し遠い場所にあったりする。
段ボールを畳みながら次の策を考えていた。
最後の段ボールを畳もうとしたとき、一枚の封筒が入っているのに気付く。
母さんからだ。
中には、一万円札が5枚入っていた。
「ったく、気を使い過ぎだよ。」
このお金はしまっておこう。
大事に使わせて頂きます。
よし、買い物に行くか。
折角なので、周辺を散策しながら駅近くのスーパーを目指す。
この辺りの土地勘を早めに掴んでおきたい。
閑静な住宅街を過ぎると徐々に飲食店が並ぶ通りが見えてきた。
思ったよりお店がたくさんあるんだな。
これなら駅周辺で十分事足りそうだ。
もうしばらく通りを歩いていく。
ぼんやりと辺りを眺めていると一軒の喫茶店が目に留まった。
開店しているわけではないが物品を運んでいるようだ。
一人の店員さんが店の窓に張り紙を貼ろうとしている。
そこから俺の動きは素早かった。
「こんばんは。」
「こんばんは。すみません。店はまだ開店前でして」
「いえ、実はその貼り紙が目に入ったのでお声がけしました。」
「そうでしたか。実は......」
店長の
足取りは軽い。
散策した成果がさっそく出ていた。
これも運命かもな。
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