第2話 美少女、義兄のストーキングをはじめる。

*今回のお話はリコ目線です。


「ううう……」


 アタシは自分の部屋のベッドの中で泣いていた。

 悲しくて悲しくて悲しくて、とてもじゃないけれど、寝つけそうにない。


 あれは、一目惚れだった。

 いきなり一緒に暮らすことになったお義兄さん。どんな人なんだろうと不安で不安でしかたがなかったけれど、そんな心配、おにぃに出会った途端に一気に吹き飛んでしまった。


「はじめましてリコちゃん。俺、流斗りゅうとって言います。よろしく」


 そう言うと、おにぃはやさしく手をさしだしてきた。

 こんな人始めてだ。

 小さい頃から、イジメの原因だった金色の髪も、青い目もまったく気にする様子もない。


 最近になって、やたらと言い寄られ始めた男子たちとも違う。

 本当に、本当に、自然にアタシと接してくれる。こんな人はじめてだ。


 おにぃは、アタシの運命の人! ぜったい、ぜったいにそうに違いない!!


 アタシはおにぃの気を惹こうと一生懸命になった。

 おにぃの大好きなふわふわタマゴのオムライスを美味しく作るために、料理なんて全然したこともなかったのに、めっちゃ練習した。


「リコのオムライス、本当においしいね!」


 って爽やかな笑顔で言われたことは、一生忘れない。


 おにぃの気を引くためなら、ちょっと恥ずかしいけれどお色気攻撃も辞さないでいる。

 とっておきのピンク色のモコモコの部屋着を着たり、お風呂のあとに思い切ってバスタオルでリビングにいったり、「ひとりじゃ眠れないから」とおにぃのベッドにもぐりこんだこともある。


 そんな時のおにぃの対応は、いつも百点満点だ。


 アタシの部屋着を「かわいいね」って褒めてくれる。

 バスタオルでうろついていたら「風邪ひくぞ」と気遣ってくれる。

 ベッドに潜り込んだときなんて、腕枕をしてくれて頭をいいコいいコしてくれた。


 とってもスマートで、とってもジェントルマン。完璧すぎる!

 一緒に過ごせば過ごすほど、アタシはおにぃのトリコになっていった。


 なのに! なのに!! なのに!!! なのに!!!!


 おにぃに彼女ができただなんて!! 許さない!!!

 優しいおにぃのことだ、きっと意地汚い泥棒ネコに騙されているに違いない!!

 絶対に尻尾をふんづかまえて、バケのカワを剥がしてやるん……だ……か……ら……。


 ・

 ・

 ・


 ピピピピ……ピピピピ……ピピピピ……


 アタシはスマホのアラームを止めると、重い頭をなんとか起こしてパジャマのまま姿見の前に立った。

 ……ひどい顔。昨日泣きじゃくったからだろう。瞳は真っ赤に腫れて、目のしたには薄っすらとクマまでできている。


「こんなボロボロの顔、おにぃなんて見せられないよ……」


 涙がほほにつたう。昨日までのアタシとおにぃのスイートな生活が、泥棒ネコのおかげて散々だ。


 コンコン


「はーい」


 アタシは返事をすると、猛スピードでベッドに潜り込む。

 ドアがガチャリと開くと、制服にエプロン姿のおにぃ顔をのぞかせる。


「リコ~! 起きてるか? 朝飯できてるぞー」

「ご、ごめん! 今日はちょっとお腹がいたくて……朝ご飯は食べられないかな」

「!! どうしたリコ? 大丈夫か!! 学校には休みの連絡いれるか??」


 ああ、おにぃがアタシのことを気遣ってくれている。なんて優しいんだろう。おにぃスキ! スキスキスキ!! 

 ……って、尊死してる場合じゃない。アタシは慌ててウソでとりつくろう。


「う、うん。しばらくしたら収まると思うから、今日は先に学校行って」

「わかった。無理するんじゃないぞ」

「ありがとうアタシのこと心配してくれて。おにぃ。大好き♥」

「バ、バカ、兄妹なんだから当然だろ!!」


 そう言うと、おにぃは足早に階段を降りていった。


 10分後。階段のしたから、おにぃの叫び声が聞こえてくる。


「じゃあ、俺は学校行くけど、リコは無理するんじゃないぞー!」

「はーい!!」


 制服に着替えたアタシは、部屋のドアに耳を当てて、おにぃが外に出るのを確認すると部屋を出る。

 今日はちょっとだけメイクが濃い目。腫れてクマのできた顔をメイクでごまかすためだ。

 

「絶対おにぃを奪った泥棒ネコの正体を暴いてやるんだから!!」


 アタシは、家を出ると、学校に向かうおにぃに気づかれないように、コソコソと後をつけていくことにした。



■次回予告

 流斗りゅうとリコをストーキングするリコ。さっそく泥棒ネコを発見!?

 おたのしみに!!


――――――――――――――――――――――――――――


 最後までお読みいただきありがとうございます。

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