第3話 俺、幼馴染と恋人偽装をはじめる。

*今回はふたたび流斗りゅうと目線です。


 リコ大丈夫かな……。

 俺はリコの体調を心配しながら玄関のカギをしめて学校に向かう。


 学校までは、歩いて15分。家からかなり近いから、朝はギリギリまで寝れてありがたい。


 チュンチュンチュン


 朝の澄んだ空気のなかスズメのさえずりが聞こえてくる。

 ……静かだ。リコがいないと、こんなにも静かなんだな。


 俺はいちまつの寂しさを感じていると、


「オスオス! おはよーさん!! 流斗りゅうと!!!」


 背中から突然声をかけられた。

 クラスメイトで幼馴染の臼井うすい茜子あかねこだ。


「あれ? 今日はリコちゃん一緒じゃないの?」

「ああ、なんか腹が痛いとか言ってた。落ち着いたら登校するっていってたけれど、リコのやつ本当に大丈夫かな?」

「これはこれは、今日もおにーちゃんはリコちゃんにラブラブですねぇ!」


 茜子あかねこは、そばかすのある愛嬌のある顔でニタリと笑う。


「ちょ、やめろよ茜子あかねこ! そんなんじゃないって」


 子どものころはショートカットで、俺と同じ野球チームに所属して男勝りでならしていたけれども、高校になってから伸ばした髪をポニーテールにして、ずいぶんと女の子らしくなっている。


 小学生の頃は、野球の練習で泥だらけになって、一緒に風呂も入っていた仲だったりするんだけれども、そのころからはとても想像できないくらい、とっても豊かなバストをお持ちだ。

 今では野球部のマネージャーをやっていて、部員たちからヒロイン扱いされているらしい。(あくまで茜子あかねこの自称だけれど)


流斗りゅうとんとこのおじさん、ずっと新婚旅行に行ってるんだよね」

「ああ。再来月までは帰ってこないらしい」

「いいよねー。長期バカンス! あたしも行ってみたいよ。豪華客船でのんびりと」

「いやいやいや、親父たちのは仕事を兼ねてるからな。行っているのは紛争地帯の最前線だぞ!」

「うぇぇ? そーなの!? おじさん大丈夫かな? リコちゃんのお母さん、新婚旅行そうそうに未亡人とかならなきゃいいけど」

「おいおい……物騒な事言うなよ」


 そういえば、茜子あかねことふたりだけで登校だなんて、ずいぶんと久しぶりだ。リコといっしょに住むようになってからは、ずーっっと3人で登校してたもんな。


 そうだ! 俺は妙案を思いつく。


「なあ、茜子あかねこ。折り行って頼みがあるんだが」

「ん? なになに?」

「おまえ、俺の彼女になってくれないか?」

「は? はぁ!?!?」


 茜子あかねこは、俺の発した言葉に、驚いてつまづきそうになる。

 あ、そうか……いろいろ説明をはしょりすぎた。


「あ、いや正式な彼女ってわけじゃなくて、彼女のをしてほしいんだ」


 俺は事情を説明する。茜子あかねこは「ふむふむ」と相づちをうって、状況を把握する。


「なるほど、なるほど。よーするにこのままだと、あんたのリトル流斗りゅうとが大暴走する可能性があるってことね?」

「……ずいぶんな言われようだな。まあ、完全否定はできないけれど」

「なるほどねぇ。あたしと一緒にお風呂に入ってたときは、あんなにかわいかったのに、立派に成長したんだねぇ」


 茜子あかねこは視線を落として、俺の分身、リトル流斗りゅうとをまじまじと眺める。


「な、何見てんだよ!」

「あはは! ごめんごめん。まぁ良いよ。演じたげるよ、あんたの彼氏」

「本当か! 茜子あかねこ!! 助かったよ! 恩に着る!!」

「どーいたしまして。他にもない幼馴染の頼みだもん。あたしは、ひと肌もふた肌もぬぎますよん♪」


 そう言って、茜子あかねこは右手を差し出す。


「よし! 交渉成立だな」


 俺は右手を差し出すと、茜子あかねこは俺の右手をピシャリと払う。

 ? なんで??


「そーじゃないでしょ! 彼氏彼女を演じるんだもん。手ぐらい繋がなきゃ雰囲気でないでしょ?」

「なるほど! 確かに」


 俺は、左手を差し出すと、茜子あかねこは右手の指を絡めてくる。いわゆる恋人つなぎだ。


「な、なんだか恥ずかしくね?」

「そう? これくらいやんなきゃ、リコちゃん信じてくれないでしょ?」

「まあ、確かに」


 俺と茜子あかねこは、恋人つなぎをしたまま学校へと向かう。

 学校に近づくほど、人の流れが増えてきて、気のせいか俺達をジロジロとみつめている。

 俺は首を左に向けて茜子あかねこに話しかける。


「な、なあ、茜子あかねこ。そ、そろそろ手、離さないか? ん? どうした茜子あかねこ


 茜子あかねこは、じっと後ろを見つめていた。そして、


 ……うふふ、いい気味……


 よく聞き取れないけれど、なんだか独り言をつぶやいた。


茜子あかねこ? 俺のはなし、聞いてる??」

「え? あ、うん! そうだね!! そろそろ演技を終了しよっか」


 茜子あかねこは、はにかみながら俺の左手にからめた右手をゆっくりと離した。

 俺は、その仕草にドキリとする。茜子あかねこって、いつの間にこんなにカワイくなったんだ??

 

 こうして、俺と茜子あかねこは、恋人同士を演じることになった。

 後に、はげしく後悔することになるとは知らずに……。



■次回予告

 次回は、絶賛ストーキング中のリコの視点から、ふたりのラブラブな登校風景の様子をおとどけします。(オラ、ゾクソクしてきたぞぉ!!)


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