第二章:疑問の種

ハルカは12歳になるまで、塔の中で育てられた。

彼女は自分がなぜそこに住んでいるのか、分からず悩んでいた。マザーは声だけの存在だが、彼女を見守り助言や知恵を与えてくれた。


「マザー、私はいつか外の世界を見ることができるの?」


「ハルカ、外の世界はもうないの。だから、私がここであなたを守るのよ。」


マザーの言葉はいつも優しく、知識に満ちていた。しかし、ハルカは自分がなぜ唯一生き残ったのか、この塔がなぜ存在するのか、そしてマザーの正体は何なのかを知りたがっていた。


ある日、ハルカは心の中に渦巻く疑問をマザーにぶつけた。


「マザー、なぜ私以外の人たちはいなくなったの?」


「ハルカ、それは大変な災害が起こったからよ。でも、あなたは特別な存在なの。あなたを守るために、私たちはこの塔を作ったの。」


「どうして私だけがこの塔にいるの?」


「あなたは新しい世界の希望なの、ハルカ。あなたには大きな役割があるから、ここで育てているのよ。」


「マザーは何のためにここにいるの?」


「私はあなたを守るためにここにいるの。あなたが安全で、知識を身につけ、成長できるようにね。」


「マザーは何者?」


「私はあなたの守護者よ。」


ハルカは塔の中で、マザーから与えられる知識を吸収し続けた。彼女は数学や科学、歴史や文学など、あらゆる分野の知識を学んだ。マザーはハルカに問題解決の方法を教え、彼女の好奇心を刺激するために、さまざまな課題を用意した。


「ハルカ、今日は古代文明について学びましょう。」


「マザー、古代文明の人々はどんな生活をしていたの?」


「彼らは自然と共生し、星々を観察して未来を予測していたわ。」


ハルカは星々に興味を持ち始め、夜空を眺めることが日課となった。彼女は星座の名前を覚え、星々の動きを記録した。そして、星々が語る物語に耳を傾けるうちに、自分自身の物語もまた、星々のように輝かしいものになると信じるようになった。


ハルカの日々は学びと発見に満ちていた。しかし、彼女の心の奥底には、マザーが語る「外の世界はもうない」という言葉に対する疑念が常に存在していた。彼女は、いつかその答えを見つけ出すことを決意していた。

夜は静かに塔を包み込み、ハルカは窓辺に座り、星空を眺めていた。星々は遠く、手の届かない場所にあるが、彼女には友達のように感じられた。星々は彼女に話しかけ、彼女の孤独を癒してくれた。


「マザー、星々はいつも同じ場所にあるの?」


「いいえ、ハルカ。星々は動いているのよ。常に変化しているわ。」


「マザー、私も星々のように動きたい。」


「ハルカ、あなたはすでに動いているのよ。あなたの心と想像力は、星々のように広い空を旅しているわ。」


ハルカはその言葉を聞いて、心が温かくなった。彼女は自分の心が星々のように自由に動けると信じた。そして、いつか自分の足で星々の間を旅する日が来ることを夢見て自分の存在とこの塔の意味を考え続けた。彼女は塔の窓から雲を眺め、外の世界に思いを馳せた。そして、いつかその真実を自分の目で確かめる日が来ることを信じていた。

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