第3話

マイラの発言に、あっけにとられる二人。先にロナが口を開いた。


「マイラちゃん。本気?」


部長も慌ててマイラを説得しはじめる。


「駄目だぞマイラさん。君はまだ若い。前哨基地は危険すぎる」

「大丈夫です。知り合いに冒険者がいるので、彼らに護衛を依頼します」

「依頼するのも無料ではない。それに前哨基地には犯罪者もいるのだぞ。殺人を犯した者もいる。生半可な実力の冒険者だとかえって危険だ」

「腕のたしかな冒険者パーティで手を貸してくれる人たちがいます」

「君はギルド職員になって二年目だ。そんな冒険者パーティがいるわけ……」


部長がそこまで言ったとき、突然、カウンターの向こうから桃色の髪をした少女が現れた。


「その話、聞かせてもらったよ!」

「カーミラさん!?」


マイラは少女を見て目を丸くする。部長とロナも桃色髪の少女カーミラが現れたことに驚いた様子だ。


「話を聞いていたのですか?」


マイラが尋ねる。


「もちろん! 最初から全部聞いていたよ!」


満面の笑みを浮かべるカーミラの後ろから、三人の若い冒険者が走ってきた。冒険者のうち、赤髪の盾と斧を背負った少年がカーミラに声をかける。


「カーミラ! 急にいなくなるなよ!」

「一瞬で目の前から消えたときはびっくりしましたよー!」


赤髪の少年に続けて、僧侶服を着た金髪の少女が言う。


「霧になっていた」


最後に長い黒髪をした少女がつぶやいた。


三人組を見てマイラはまた目を丸くする。


「レオさん。それにソフィアさんにクロエさんまで……」

「マイラさん。お疲れ様です。何かカーミラが迷惑を掛けてませんか?」

「そりゃ心外だよ! 僕はマイラさんの手助けをしたかっただけさ」


赤髪の少年レオの発言に、カーミラが抗議する。


「マイラさんを手助け?」

「そうさ! マイラさんが迷宮に行くらしいから、その護衛に行くのさ!」

「迷宮に? 本当ですかマイラさん?」


レオが信じられないといった様子でマイラに尋ねる。


「まだ許可を得られたわけではありませんよ。今度の前哨基地への派遣に参加できないかお願いしていたところです」

「ああ、もうそんな時期ですね」


レオが感慨深げに頷いていると、部長が眼鏡を押し上げながら口を開いた。


「マイラさん。彼らが君の言っている知り合いの冒険者たちか?」

「はい」


マイラが頷く。部長は微妙な表情を浮かべて言った。


「まだ冒険者に成りたての若者たちに見えるが……」


マイラの代わりにレオが口を開いた。


「レオです。冒険者登録を受けて今年で二年目になります」

「まだ新人も同然じゃないか……」

「彼らはBクラス冒険者パーティです。部長」


呆れた様子で言葉をこぼす部長にマイラが言った。


「それは本当か? かなり若く見えるが……」

「はい、現在生存が確認されているBクラス冒険者パーティの中では最年少のパーティです」

「ふむ……」


腕を組んで考え込む部長。マイラはレオに向き直った。


「レオさん。まだ確定しわけではないのですが、私からの依頼を受けていただけないでしょうか?」

「前哨基地まで行くわけですよね。うちのパーティは投票で決めてるのでちょっと確認する必要が……」

「僕は絶対、マイラさんを助けるに賛成だよ!」


カーミラが勢い良く手を上げて言う。


「私も賛成ですねー。私たちの最終目標にも合致しますし」

「異論はない」


ソフィアとクロエも賛成のようだ。これで冒険者パーティ『成り上がり隊』はレオを除いた全員が、マイラの依頼を受けることに賛同した。


「後はレオ、君だけだよ」


カーミラは強い視線をレオに向けた。レオは少し考えてから口を開いた。


「詳細については後で詰めるとして、俺もひとまず賛成です」

「皆さん、ありがとうございます」


マイラがレオたちに向けて頭を下げた。マイラの対応に、レオは少し顔を赤くして恥ずかしそうに頬を掻き、カーミラはえっへんと胸を張る。ソフィアとクロエは少し肩をすくめただけだった。


「部長、お願いします。今回の派遣は私に行かせてください」


マイラは顔を上げて部長に言った。しばらく部長はマイラの目を見ていたが、決意が揺らがないと分かると溜息を付く。


「勝手に決めてもらっては困るな。このようなギルド公式の依頼内容は君の一存で決められるものではない」


そして少しの間をおき、部長は続けて言った。


「了解した。今回の派遣はマイラさん。君に行ってもらうことにしよう。そして護衛にはBクラス冒険者パーティ『成り上がり隊』に依頼するとする」

「っ! ありがとうございます部長!」

「後で正式に依頼書を発行する。ロナさん。後の手続きを頼んだ」


部長はそう言い残すと、カウンター後ろにある部長室に戻って行った。


「やったね! マイラさん!」


カーミラが軽やかに跳躍してマイラに抱き着いてきた。豊かな桃色の髪がマイラの視界一面に広がり、その後、人形のように整った顔がまじかに現れた。


「よかったね。これでノラに会えるよ」

「っ!」


ささやくように言われ、マイラは驚いてカーミラを見る。カーミラはウインクを一つすると、すぐにマイラから離れて窓口から離れて行く。


「レオ。僕は先に失礼するよ」

「何か用があるのか?」

「ちょっと寄るところがあるのさ。それじゃ」


そう言ってカーミラはマイラに妙にかしこまった一礼すると、現れた時と同様、あっという間に行ってしまった。


(知っていたの? 私が派遣に行きたがる理由を……)


見るとギルド入り口の木扉が揺れている。そこにはもうカーミラの姿はなかった。

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