第4話「聖女」
『へ~。あなた山田君って言うんですね』
からかうようなムエルの声を無視して背の高い女性に向き直る。
「エリアーナさん、山田くんはやめてくださいよ」
「でも山田くん、中々新しい名前を教えてくれないじゃないですか。それに私としてはその名前、可愛くて好きですよ?」
楽しそうに言う彼女は"聖女"エリアーナ。転移してきたばかりの日本人たちを援助してくれる「教会」のシスターの中でも最も強い権限を持つ人物だ。この世界で俺の本名を知る唯一の存在でもある。
「突然大きな声がしたので見に来たら山田くん、ぶつぶつと独り言を言ってるんですもん」
彼女の気遣うような表情に心が痛む。
「何かお悩み事でしょうか? ……もしかして、お金が無くなっちゃったんですか!? 待っててください、すぐ教会に連絡しますから」
「い、いや。 違うんです」
俺は焦って否定するが、頭の中には冷ややかな声が響く。
『……あなた、もしかしてこの人からお金を貰って生活してたんですか?』
「最初に支給された分以上は貰ってない」
「!? そ、そうですよね、ごめんなさい。あれだけじゃ足りるわけないですよね……!」
聖女が申し訳なさそうな顔をする。本当に勘弁してください。これ頭の中だけで会話できないのか?
「本当に何でもないですから……! ちょっと考え事をしてたんです」
「本当ですか……? もし困り事があったら遠慮なく言ってくださいね?」
聖女は心配そうな顔を残しながらも一旦は納得してくれたようだ。
おもむろに、彼女は俺の体を上から下まで見る。
「ところで、なんだか今日の山田くんは雰囲気が違いますね。もしかして、聖魔法の練習をしてらっしゃるんですか?」
聖魔法……?いったい何のことだろう。
『流石シスター、見る目があるじゃないですか。正しくは聖魔法じゃなくて神通力なんですけどね』
満足そうな天使の声色に俺は少し腑に落ちた。
もしかして、ムエルが入ってきたことで俺の魔力の流れが変異してるのか?
聖女は楽しそうに続ける。
「ふふ、嬉しいです。山田くんなら、きっとすごい聖魔法使いになれますよ」
「あ、あえ、……っす」
『なんですかその情けない返事は』
ここまで嬉しそうにされると違うって言いづらいじゃん……。
俺がはっきりと物を言わないうちに話が進む。
「その……もしよかったら、私がつきっきりでお教えしましょうか?」
「いえ……! しばらくは一人で頑張ろうかなー、なんて思ってまして」
絞り出すように拒否の意思を示すと残念そうな顔をする聖女。直後、修道服の女性に横から話しかけられる。
「エリアーナ様、もうすぐ式が始まってしまいます」
「あら、もうそんな時間でしたか。ごめんなさい、ついおしゃべりに夢中になってしまって」
聖女はこちらを振り向いて言う。
「今日は山田君とお話しできて嬉しかったです。普段はあまりお家から出てこられないようですから」
そうして彼女は教会の方へ去っていった。
『ずいぶんあの人に気に入られてるんですねえ』
「そういうんじゃない。あの人はこの街から出ていかない俺をずっと心配してるんだ」
正直、彼女の期待には応えられそうにないからあまり出会いたくなかったんだよなあ……。今日は聖魔法を練習してるなんて変な嘘もついちゃったし。
そういえば、聖女に会うのも実に半年ぶりか……。ん?
その時俺の中に一つの疑問が浮かんだ。
「なんで俺がほとんど家から出ないって知ってるんだ……?」
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このくらいの長さでポンポン投稿していきたいですね
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