第5話 帰還

 次の日の昼過ぎ、正確には、昼を過ぎてだいぶ経ったころ、私は友人と別れて帰途についた。

 友人は、鉄道の上を越える大きな跨線こせんきょうの下まで見送ってくれた。

 大きな駅の近くらしく、跨線橋は何本もの線路をまたぐらしい。跨線橋の上も片側四車線か五車線という道路なので、線路も跨線橋も規模が桁違いに大きい。

 線路のほうでは、標準軌の規格を完全に活かした巨大な電気機関車がすさまじいモーター音を立てている。

 音はすさまじいが、速度はそれほどでもない。跨線橋の下に見えるわずかなすき間を、ゆっくりゆっくりと、大儀たいぎそうに通って行く。

 長大な貨物列車を引いていたのかも知れないが、そこまでは確かめなかった。

 跨線橋の両側にも歩道がある。私の友人は、手を挙げて「じゃあまた」と軽くあいさつすると、その跨線橋の歩道を上がっていく。

 小さな黒い肩掛け鞄を持った二人の男と合流する。友人は、私を送ったら、この二人とまたどこかに行く約束をしていたらしい。私などいなかったかのように、友人は、その二人と熱心に何かを話しながら歩いて行った。もちろん私をふり返ることなんかしない。

 私は跨線橋には上らず、その脇の道へと曲がる。

 やはりほこりっぽいコンクリートのこぢんまりした建物が並ぶ。

 そのなかに、白地に鮮やかな緑の丸印の看板が出ていた。その看板の下は下へと向かう階段になっている。

 東京メトロ千代田線の駅だ。

 ここから乗れば、十分と少しで新御茶ノ水に着く。そこで中央線に乗り換えればいい。

 地下鉄の入り口の近くに柳はなかった。

 空は、ほこりっぽい色ながら、晴れている。夕方が迫りつつある時刻の斜めの太陽だったが、気もちのいい晴れの一日だ。

 私は、その空気の乾いた街の午後の景色に別れを告げ、人工的な昼光色の照明に照らされた地下鉄の駅の階段を下りて行った。


 (終)

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