第4話 柳

 思い返してみれば、その空き地の店のそこここには柳の枝が翻っていた。

 ほとんど吹いているとはわからないような風で、左右にゆっくりと揺れていた。

 私はトロリーを下りて今日の宿にたどり着いた。

 宿の主人は私の古くからの友人だ。友人と私は、夜遅い時間であるにもかかわらず、くだらない話を延々と続けた。

 そして長い夜がほんとうに深くなってから、その家の二階に案内された。

 今夜はここに泊めてもらう。

 家の窓は広い通りに面していた。半透明ガラスで外がよく見えないので、私は窓を開けてみた。

 外はアスファルト舗装された大きな通りだ。白いラインが車線を仕切っているが、何車線あるのかはよくわからない。

 夜が遅いこともあるのか、車通りはない。

 その広い通りが、車が通るのをずっと待っている。

 街路灯は白い昼光ちゅうこうしょくで、それがその道路のところどころを照らしていた。

 そこも道の脇には広い歩道があって、街路樹が植えてある。

 街路樹は葉をいっぱい茂らせた柳だ。

 柳は、やはり、吹いているのかどうかさえわからないような風に揺れている。

 私のいる部屋のすぐ外にもその街路灯があり、その街路灯の昼光色の光の輪の中になびいてきたとき、その柳の葉の緑が鮮やかに見えた。

 若々しい、みずみずしい柳。

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