第12話





『コンコンッ』

「入っていいよー」

「……うぇっ!!?」

「あははははっ。おもしろい顔~」

「ちょっ、ちょっと服着てくださいよっ!」

「ワタクシぃ寝るときは服着ないのよねぇー」

「同じ部屋で泊まるなら、なんにもしないって言ったじゃないですかー」

「別に手を出さないから問題ないじゃなーい? それとも手を出して欲しい?」

「早く服を着てくださーいっ」


クーデターと王族の処刑を終え、王都は祝福モード。


そこから2日後、ティルモはメアと旅に出た。旅とはいっても、恋人としての恋愛旅行ではない、アシェンティモードから受けた任務だ。


『君の同僚メルティは英雄だ。民からの人気は絶大、こちらとしても地位と報酬を出さないわけにはいかない。比べて貴様の活躍はカスだ。しかしここで大きな仕事を振ってやる』


そんなことを言われたティルモは別にメルティと自分を比べて惨めさを感じていたわけではない。だが羨ましくはあった。


人々が湧き、世界が変わった。そんな歴史を動かすようなことができたらと憧れがあった。クーデター後の後処理はまだまだある。ティルモに振られたのはその仕事、すぐに首を縦に振った。


『メアと共に行け、彼女は優秀なだ。今回の目的は手紙を渡すことだ。妨害があるかもしれない、だが彼女がいればある程度危険は回避できるだろう』


暗殺者では? との疑問は飲み込んだ。メアが言うには密偵も彼女の得意とする仕事らしい。


はじめての旅、荒事が前提の危険な仕事。ティルモは王都から出た時点でもかなり緊張をしていた。


一方でメアはまるで遊びのための旅行のように常に笑顔で、道中で出会う小動物や景色を指を指す。それとティルモに時々いたずらをし、からかう。


最初に泊まった宿でも着替えると言ってティルモを外に出し、招き入れるときはシーツ一枚を体に巻いて驚かせた。


「早く寝よーよ。明日もたっぷりと歩かないといけないわよ?」

「メアがそれを言わないでくれ……ください」


今日一日、たっぷりと振り回されたティルモは疲れ切っていた。言葉遣いも崩れるほどに彼には余裕がなくなっていた。


「いいじゃん。お互い馴れ馴れしい感じの方が仲良くなれるわよー」

「馴れ馴れしくなったら、もっと疲れさせるつもりなんでしょっ!?」

「そんなことー……ないかな?」

「ああっ、もうっ! 言葉遣いを直したら、イタズラしない。それならっ?」

「うれしいっ。じゃあイタズラはやめるねー」

「……はぁ。おやすみ」

「おやすみぃ」


完全にメアが主導権を握った状態で旅は始まった。





数日が経った。メアとティルモとの関係は仲の良い友人程度まで縮まった。その間、過度なスキンシップはなし。それはそれでむず痒さを感じた。


ティルモはメアに対しての警戒心を解いていた。これだけ寝食を共にして、話をした仲だ。それは当然の流れといえる。


むしろ今回はティルモはメアを心配する側に回る。


「本当に1人で大丈夫なの?」

「大丈夫だよー。手紙を渡すだけだし、それに危ないなら1人の方が逃げきれるわー」

「…………」


今は夜、それにメアは美人だ。ティルモには最悪のシナリオがいくつも思い浮かぶ。


だがティルモは素人、メアは貴族のお抱えのプロだ。自分にできることが何もないのがティルモには歯がゆい。


そんな彼の心配は他所にメアは散歩をするような様子で出かけ、何事もない様子で帰ってきた。そんなことが何度か続く。


この旅の最終目的地はティルモは聞いていたが複数の場所で手紙を渡すためにぐるりと迂回をするような形で道を進む。





「最近変じゃないか?」

「ん?」

「特に夜だ。騒がしいと思ったら、朝には犯罪者が何人も捕まったと聞かされる。そんなことがもう2度目だ」

「……やっぱり酷い領主なんじゃないのー? 手紙を渡すのは多分そんな人ばかりだと思うしー」

「はぁ。メア、本当に気を付けてくれよ。あと夜には出歩かないでくれ」

「しょうがないじゃない、夜に行けってのはアシェンティモード様の指示なんだから。……でも気を付けるわ」

「頼む」

「ふふっ」

「なにかおかしいか?」

「ティルモ君、旦那さんみたいだなって」

「…………」

「あれ?」


2人とも顔を赤らめて黙り込み、ティルモは顔を背けてベットに倒れ込んだ。メアもティルモをイジることなく、布団をかぶった。

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