第11話




「「「ウオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!!!」」」

「「……………」」


クーデターの決行から20分程が経過した時点で趨勢はほぼ決した。城壁の内部に叛意を露わにした民衆がなだれ込み、騎士たちの士気の火は消え、武器を落とした。


「アシェンティモード様、おめでとうございます」

「ああ、まさかこれほど上手くいくとは想像していなかった。だが最後まで油断をするな」

「はっ」


メルティによって万に迫る民衆を動かすことが可能になったアシェンティモードは悩んだ。彼が忠誠を誓う第二王子とそれを支える重鎮たちと協議を重ね、ことを前提に作戦を練った。


王城は城壁で区切られる三層からなる。元の民衆を動員しない計画では騎士団を弱体化させ、騎士団内部や城内に潜入した戦闘員によって素早く制圧する計画であった。


しかし状況が変わった。たとえ戦えなくても、戦いは数だ。やりようによっては簡単に相手の士気を減退させることができる。


やり方はこうだ。最も外の城壁に多くの戦力を集中させ、電光石火の早業で東西南北すべての城門の騎士を制圧。そこに大量の民衆をなだれ込ませるというわけだ。


民衆には怒号と調理器具でもよいので武器を持たせて怒りを露わにさせておけばよい。唐突にそんなことが起きれば城内はパニックになる。味方には首に黄色い布を巻けば同士討ちの心配はほぼないだろう。


「王族は皆処刑だろうな……」


クーデターを起こすなら、継承権を持つ者を残して置かないのが無難だ。これが成功してもその後が大変だから、そんなときに蜂の一刺しでも致命傷になる。


アシェンティモードは独り誰にも聞こえないようにつぶやく。彼とて、手を汚すことに抵抗がない訳ではない。国を憂いて必要と思ったからその心が根底にある。


この国は周辺国よりも大きな国だ、しばらく戦争も体験していない。だがそれにかまけて水面下の他国の動きを読まないのはただの怠惰。近いうちに取り返しがつかないことになると一部の知識階級は警告を発していた。


しかしその返答は理不尽な弾圧。見せしめに爵位を持たない学者が何人も投獄、処刑された。第二王子の元に人が集まり出したのはそれからだった。表立って政権のやり方を否定せず、内部で王を討とうとする集団が作られた。


周辺国は平民でも能力があればある程度の高さまで引き上げる制度がある。いくら教育環境が充実していても、母数の少ない中での才では国は発展しない。第二王子の派閥はそこも取り入れようとしていた。


計画の中に平民の協力が入っていたのは実は実験的なものだった。結果としてそれは大きく、最後にメルティによる活躍は作戦を大きく成功に導く要因になった。





この日、アシェンティモードの計画通り、王城は陥落し、後日王族や腐敗貴族の処刑が執り行われた。


中世世界の処刑は民衆の娯楽の面も持っている。それが贅沢三昧が目的の圧政を敷いた本人たちならば当然沸きに沸き立つ。


王や一部の腐敗貴族は豚のように醜く肥え太り、汚い叫び声を上げた。


そして処刑の後、新たな王から民に向けて言葉が贈られる。


「この国は生まれ変わる。それには諸君ら民たちの力が必要だ、協力してほしい」


処刑というショー、その興奮の後でも壇上に王が立つと民衆が静まり返った。短い言葉だった、だが処刑の後とは違い、沸き立つ声は大きくとも喜びと祝福に満ちていた。

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