第9話
「ティ~ルモっ♪」
「……」(おっぱい!?)
「…………」
今の状況を説明しよう。今はメルティ先輩と巡回中、ここは人通りがまばらだが平和な住宅街である。
そんな場所で僕たちに美女が近づいてきた。手を振って僕に挨拶をしながら、当然先輩は彼女のことを知っているのか僕に尋ねる。顔見知り程度の関係と僕は言うのだけれど、先輩はそれを疑っているようで頬を膨らます。かわいい。
近づいてきた美女、メアはそんな僕たちのやり取りに水を差そうと思っただろうか。いきなり僕に抱きついてきた。僕の腕や胸におっぱいが押し付けられる。
「顔見知りって言っていなかった?」
「えー? そんな冷めた関係じゃないよねー」
いきなり修羅場っ!? メアは僕をイジるのが好きなようだ。それもいたずら好きという範疇ではない。悪女だと僕は思っている。燃えそうなものがあれば火を付ける、そんなことを嬉々としてやるタイプだ。
だから僕はバッサリと誤解がないように断言しなければ。メルティ先輩の声と目が死ぬほど冷たくて怖いからねっ。
「僕と彼女が恋愛関係になることはあり得ません!」
「じゃあアタシとは?」
「……アリとだけ言っておきます」
「よろしい」
多少言葉が変だったようだが先輩は僕の答えに満足したようだ。未だ僕に絡もうとしているメアを引っぺがすことに遠慮はなかった。
「あっ、連絡があったわ」
「え」
「今夜、あの場所でね」
手をヒラヒラとさせて去るメアには上品さと優雅さがあった。さっきまで僕に絡み、先輩と格闘していた人物とはまるで別人だった。
あっけに取られる僕と先輩だったが、我に返るのが早かったのは先輩の方。
「あの女となにがあったのかくわしく教えてもらえるわよね?」
「はいっ」
僕は先輩に全部話した。
アシェンティモードという若い貴族がクーデターを企んでいること、その協力を僕が求められて、つい先日は騎士を酒場で襲ったこと。メアが今夜呼び出したのはその酒場だということ。
「今更なんだけどそこまで話してよかったの?」
「協力しろと言われたときに周りの人間に話してもかまわないと言われました。もしクーデターが起きるのならばその混乱で多くの人が傷つくのかもしれません。僕は近いうちに先輩や同僚たちに話をしようと思っていました」
「……その貴族に何か裏はないのかしら?」
「僕もそれは考えました。今まで黙っていたのはそれを考えたからでもあります」
メルティ先輩はしばらく考え込む。僕は声を掛けることをせず、周囲を見渡しながら待つことにした。
「多分なんだけど……。決行はすぐじゃないかしら?」
「ええっ!?」
なんとなくまだ先と思っていた僕には、かなり確信めいた予想は衝撃だった。先輩はその理由も話し始める。
「騎士の腕の腱を切ったって話だけど、仮に隊長だとしたら訓練を何日もサボるのは無理があるんじゃないかしら? だから任務中の怪我ということにして、できるだけ自分に過失がないように立ち回るのじゃないかしら。ところで襲撃したのはいつだったの?」
「おとといの夜です」
「なら3日以内には決行するでしょね。おそらくその騎士が王城の警備に回った日にね」
「3日以内……」
更にメルティ先輩は予想を続けた。騎士団の中に内通者がいて、襲った騎士のように襲いやすい条件の者を何人か襲う。無力化、もしくは負傷をさせた騎士が多い日にクーデターを決行するかもしれない。
「決行日が近くないと、いくら平民から情報が洩れようと気にしないと言っても協力者が多すぎる。リスクを無視しすぎている」
「先輩すごいですね」
「ティルモ、アタシも今夜その酒場に行くわ」
「はい?」
「少なくとも今の貴族の横暴には不満があるもの。平民も協力して立場を良くできるならやるべきよ」
「うーん、マジですか?」
「数は力よ。いくら平民なんて知ったことかなんて言う貴族様でも万を超える民衆を味方に付けれるかもと思えば話に乗るでしょ」
万を超える民衆って先輩、あなた何をしようっていうんですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます