第7話




「……クーデター?」


僕を誘拐した黒幕、アシェンティモードがやろうとしているのは国家転覆だった。


想像を遥かに超えた大犯罪予告。目の前の男が化け物に見えた。


しかしそんな大きな混乱、多くの市民が傷つくだろう。


僕の心は化け物を恐れるのではなく、怒りを向けた。


「貴様ぁ、誰に向かって殺気を向けてるんだっ!」

「ぐっ!?」


僕が抱いた感情は脇にいる従者にすぐに伝わったらしい。だが腕を極められ、頬を殴られても僕は怒りの目を化け物に向けた。


そんな化け物は笑う。


「くくっ。こいつは思ったよりもいい拾い物だったようだ」

「しかし、この通りこいつは危険です」

「いや、この怒りは正義感からだ。ならば私とは利害が一致している」


利害が一致? こんな化け物と僕は同類だというのか?


「まず私が巨悪だということが誤解だ。確かに私は平民のことなんぞ眼中にない。それよりも遥かにこの国を蝕む寄生虫の方が悪質だ。そんなに平民どもが大事ならば、むしろ協力しろ。それでも心配ならば、仲間の衛兵どもに民を守らせればいい。他の平民の手駒どもはそのつもりらしいぞ」

「……そこまで話してよかったのですか?」

「寄生虫どもが平民から出た噂を信じると思うか? 仮に噂が貴族の間で回ろうとも、私以外の貴族の名を並べれば簡単に疑いは薄まる。そもそもいちいち噂の出所を探るような真面目な連中がいるならば、この国は腐ったりはせん」


今まで遭遇した貴族を思い浮かべる。堂々と強盗や人さらいをするような輩もいた。この国が腐りきっていることは言われるまでもなく分かっていた。


「具体的には僕に何をやらせるのですか?」

「貴様はバカか? 詳細や日時を教えるわけは無かろう。貴様にやらせることは追って知らせる。普段は衛兵として過ごすがよい」

「え?」


まさか連れ去られるようにここに来て、帰ってよいなどと言われるとは思わなかった。


クーデターに関してはあまり協力したいとは思わない。僕の役割は多分捨て駒。


それに彼の話が嘘ということもあり得る。それこそ貴族の道楽、彼が言う無理難題に苦しむ様をこっそりと眺める遊びなのかもしれない。


しかし話が本当ならば、信用されれば事前に危険を教えてもらえるかもしれない。その危険がメルティ先輩や同僚、知り合いに向くのは嫌だ。アシェンティモードが言うように僕が情報得れば守れるかもしれない。


彼は他の貴族とはかなり違う。もしかしたらと期待する自分もいるのだ。





屋敷から戻って3週間が経っても全く連絡はなかった。


忘れられたかと思った頃、従者は前触れもなくやってきた。


「来い、仕事だ」

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