第4話
「■■■■■■っ!」
ダメだ。できるだけ騒いでみるが近くに人がいないようで反応がない。
拘束しているロープもしっかりと結ばれている、緩まる気配はない。後ろ手と足首、動きにかなり制限をされている。
暴れるのはすぐに止めた。手足を拘束されて、目隠しをされていても部屋の中は調べることができる。
期待はしていなかったが脱出の手掛かりはなかった。狭い部屋、開かない扉が確認できただけ。ただ木のざわめきが聞こえるから外が近いことだけは分かった。代わりに人の気配も全くなく、見張りもいないようだ。
「…………」
多分、1日近くが過ぎた。袋を被されているとはいえ、陽の光が無くなり、再び明るくなれば昼と夜が変わったことくらいは分かる。未だ助けはおろか、人の気配さえしない。
最悪の気分だ。
拘束された状態で床に転がされれば、体は痛くなる。尿意が我慢できず垂れ流すしかなかった。お腹もグーグー鳴っている。
それよりも極度の緊張で激しく消耗している。体は明らかに弱り、心はすり減った。どうしてもネガティブなことばかり考えてしまう。
この状態では脱出は無理だろう。男性を無力化するのはそこまで難しいことではない。力を使うことをさせて精力を尽きさせるか、今のように自然回復ができないよう飢餓状態にするか。
犯人が僕をどう扱うかはわからない。人質にされるか奴隷にされるか、もしくは人体実験にでも使うか。いずれにせよろくなことにはならないだろう。
不意に非番の日に聞いたことを思い出す。女が好む見た目をしていると言われたこと。もしそうなら多少扱いはマシだろうがそんな人生は御免だ。
背中が恐怖でぞわっとした。最初は死ぬことになっても隙があったら逃げようという気概があった。しかし今は既に心は折れて、嘆くことしかできない。
気になることといえばメルティ先輩のことだ。誘拐された時のことは覚えていないができるかぎり記憶を掘り起こす。最後の記憶は逃げてきた少女を家の近くまで送り届けた直後。僕は不意打ちを食らい、意識を失ってしまったのかもしれない。
それならばメルティ先輩も襲われているはずだ。僕とは違い、彼女が捕まっていないことを願う。
無駄に時間があると、とある仮説が頭に浮かんでしまう。あの少女が犯人の一味ではないのかと。他人を疑う自分が嫌になる。こういう時に限って極限状態で精神を保つための防衛本能だと言い訳が出てくる。
僕が非番の日、足を運んで男に警告を受けたのは北の6番通り。少女を送り届けたのは北の2番通りだ。
王都の北のエリアは庶民が多く暮らすエリア。5番通りまでは比較的治安がいいと呼ばれているけれど、通りの奥は繋がっている。中心地から離れるエリアの奥になるほどに貧しい人々が暮らすスラム街になっている。
少女の家は2番通りの入り口から500メートルほど歩いたあたり、少女を送り届けてしばらく後に僕は襲われたと思う。
『コンコン』
「!!?」
頭が朦朧とし時間感覚があやふやな中、不意に木の板を叩くような音が聞こえた。突然の人の気配。体はビクリと反応してしまう。
「お姫様はお目覚めかな?」
「…………」
まるで男を装うような低めの声。だがおそらく女の声だ。
「大人しくしろ、今から水を飲ませる。死んでしまうのはこちらとしても不本意なことだ」
「…………」
犯人の提案は不安だったけれど従うしかない。だが水を飲ませることは考えていなかったのか、顔を覆う袋とさるぐつわをうっとおしそうに外す犯人。
更には僕が漏らしているのに気が付いたのか悪態までついてくる。
「臭いなあ、全くっ!」
知ったことではない。ならば誘拐するなと言いたい。
犯人は僕を部屋の隅へ少し移動させることにした。尿が垂れた場所は踏みたくないようだ。
別の目隠しをすぐにつけさせられたが、やはりここは小屋の中だった。薄暗い、何部屋かあるうちの奥の方の部屋。どおりで外の音があまり聞こえなかったわけだ。
(おっぱい)
僕は抵抗することはなかったが、それでも犯人は作業に手こずる。とうとうしびれを切らしたようで僕を後ろから抱きつき作業を続けた。
チャンスだ、と思わせるほど水の潤いとおっぱいの感触は僕を回復させた。
「ふんっ!!」
「いっ!!?」
僕は犯人を掴みながら床に勢いよく倒れ込んだ。手足を縛られた状態でできる唯一の攻撃。何度もボディプレスをし、犯人を弱らせる。
もう後戻りはできない。さっきまで出口の扉は締まっていた。もし仲間がいれば出口は塞がっているかもしれない。
扉はあっさりと開いた。ドアノブを後ろ手で掴むと抵抗なく開けることができた。
次の扉を出るためには目隠しを付けたまま壁にぶつかり扉を探すしかない。手探りでここから出るしかないのだ。
2枚目、3枚目の扉を開け、明らかに明るさが変わった。おそらく外だ。
飛び跳ねながらひたすら前方に進む。誰か犯人一味以外の人間に発見されることを祈りながら。
「おい、あんたどうした!!?」
「っ!!!」
僕は逃げきることができたようだ。
衛兵の制服、縛られて目隠しをされた異様な姿、明らかに事件だと見つけてくれた人は思ってくれた。
すぐに人が集まり、役人に通報をし、ほどなくして僕の同僚たちではない衛兵たちが到着した。
人が集まってきたタイミングで僕の気力は尽きた。極限状態での緊張それが緩まり、思い出したように疲労が襲ってきた。気を失っても仕方がないだろう。
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