第2話



「ティ、ティルモ!?」

「ごめんっ! 今の状況を打開するにはこうするしかないんだっ!」

「あんっ!!?」


取引所を襲った強盗と応戦する僕ら。激しく消耗した僕は強盗を捕えるためにを揉んだ。


「おごっ!?」


体の奥からナニかがアガってくる感覚。体に力強さが戻った。


どうやら僕は珍しい体質らしく、女性のおっぱいを揉むことで精力の一時的な回復ができる。ちなみにかーちゃんのおっぱいを揉んでも回復はしない。


「ブーストっ!!」

「「「うわああああああああ!?」」」


逃げる強盗に僕はすぐに追いついた。背後から不意を突き、足払い、勢いよくコケて痛みに悶絶する強盗を捕らえるのは簡単だった。


「「ありがとう。ティルモがいてくれて助かった」」

「いやいや。みんなで掴んだ勝利だよ」

「…………」

「…………」


他の同僚とは違い、メルティは手で胸を隠すように押さえ、無言で睨んでくる。その視線に苦笑いしかできない。


すぐに「ごめんなさい」と謝れたらいいのだが今は犯人を護送中、まだまだ2人きりになって話すことはできない。


「それにしてもまた強盗か……」

「治安は確実に悪化しているな」


強盗たちを留置所に入れ、合流した他の衛兵たちと情報共有をする。やはりこういうことが度々起こると市民の不満が溜まっていることが分かる。


犯罪者を捕えたからといって素直に喜べないのがこの仕事の辛いところだ。この強盗行為は生活が苦しくて行ったもの。彼女たちには懲罰の強制労働が待っている。


後味がものすごい悪い。取り押さえる最中に叫ぶ内容は家族や仲間のこと、僕らは衛兵としての仕事をしているはずなのに通行人には悪の手先のような目で見られてしまう始末だ。





「ごめんなさい」

「…………」


ようやく2人きりになれたタイミングで僕はメルティ先輩に土下座をする。


頭を上げるのが怖い。そう思うほど、先輩は何も言ってくれない。このまま頭を踏まれて罵られた方がマシなほど、しんとした時間が続いた。


「……それほど怒ってないよ。犯人たちを捕まえるのに必要だったんでしょ?」

「…………」

「それ止めて。怒ってないから」

「はい」


僕は地面に正座をしたままメルティ先輩を見上げた。


「っ!!」


普段見ることのない下からのアングル。制服の上からでも主張するおっぱいについ目を向けてしまう。


こういうとき、女性は男の視線によく気が付く。


「ちょっと! ホントに反省してる!?」

「は、はいっ! もちろんですっ!」

「……えっち」

「申し開きもございませんっ!」


メルティ先輩には僕の少し変わった体質について説明した。


「ふーんなるほどねー。でもなんでペアの先輩のわたしに黙ってたワケ?」

「……そんなこといきなり話したらヘンタイじゃないですか?」

「ふふっ、それは確かにヘンタイかも」


しょんぼりする僕を見ながら先輩は笑った。


「さあ、立って。仕事の続きよ」

「はいっ」




そしてこのあとは事件もなく仕事が終わる。そのあと僕はメルティ先輩から言われた言葉に驚かされる。


「今日は……びっくりしたわ」

「……はい、ごめんなさい」


意外なことに昼間のおっぱい事件のことをメルティ先輩から掘り返してきた。


「もう終わったことなんだから謝らないの。ふふっ」

「どうしたんですか? 思い出し笑いだなんて」


彼女にとって単純に不快な出来事ではなかったようだ。しかし様子がおかしい。


「ティルモのこと、ちょっと頼りにならない後輩くらいにしか思ってなかったんだよ」

「突然ディスられた!?」

「ふふふっ。でも力が強くて、体が硬くて、いざというとき頼りになるんだなぁって思ってね」

「あ、ありがとうございます」


脳がバグる! 謝罪モードと思ったら滅茶苦茶に褒められて……もしかして口説かれてる!?


「……だからね」

「……(ごくっ)」


メルティ先輩っ。すっごいカワイイ顔してる……


「他の人にはしちゃダメだよ」

「っ!?」


こ、これは告白!?




次の日のメルティ先輩は何事もなく挨拶をしてきて、仕事中はいつも通りだった。


僕はでっかい心臓の音が聞こえそうなほどガチガチだったんだけど、たまにそれをイジられるくらい。そのうち普通に話せるようになった。


マジで女子ってわからん。




メルティ先輩と交わした約束を早々に破ることになることをこのときの僕は想像もしていなかった。

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