イクラご飯の作り方

「あ、お姉ちゃん。『腹子』届いたよ、ありがとう」


『どういたしまして。それより例のイケメン彼氏とはその後どうなの?』


「上手くいってるような無いような」


『どっちよ』


「一緒にいて心地いいよ。でも中々進展しないんだ。……お姉ちゃんだから言うけどね、デートの度に今夜こそ? って思って可愛い下着で行くんだけど毎回出番なしだよ」


『ふうん。遊び慣れた男じゃなかったのね、安心した』


「私は不安……全然魅力ないのかもって」


『あんたの事だから、隙を見せない上に待ってるだけでしょう。美琴から誘えば?』


「ど、どうやって……」


『家に呼んで襲う』


「お姉ちゃん⁈」


『ってのは冗談にしても、分かりやすい形でウェルカムだって伝えないと。……今からイクラ食べようって呼べば?』


「そんな急に……」


『何事も思った時が好機よ』



 お姉ちゃん、人事ひとごとだと思って……。

 姉との通話を終えた私は、恐る恐る彼の番号を押した。


「急にごめんなさい。実は生のイクラが届いてしまって……あの、一緒に作ってもらうことできますか?」


 呼んでしまった。

 


 40分後


「ごめん、車がなくて少し時間かかった」


 なんと、敦也さんは自転車でやってきた。

 額が少し汗ばんでいて、清潔な香りに混じった敦也さんの香りに胸がドキンとした。

 


「どれどれ立派なイクラだね。よし、早速取りかかろうか」


 料理は得意と聞いていたけれど彼は想像以上に手馴れていた。

 生イクラを流水で洗い、ささっと汚れを取っていく。


「今日は、秘密兵器を持ってきたんだ。ほらこれ」


 敦也さんは、丸い金網を取り出した。


「どう使うんですか?」


「まずは薄皮を破いて、卵を金網に乗せるんだ、こうして回しながら押し付けると……ほら」


「凄い、こんな裏技が」


 敦也さんの大きな手、長い指が卵を潰さないよう優しく円を描き、網目からは赤い粒がポロポロと面白いように解れていく。

 しなやかな指に、私も触れられたい……なんて妄想が頭を掠める。


 丁寧に洗われたイクラは、キラキラと輝いてとても綺麗。

 それを醤油と酒、味醂で作ったタレに浸して調理は終了した。


「2時間は漬け込まないといけないかな」


 という訳で、私たちはお茶を飲みながら一息ついた。


「……映画でも観ます?」

 

 隣に座る敦也さんに尋ねたら……


「じゃあ、キスでもしてみる?」


 という不意打ちの提案があり、彼の顔が目の前にあった。

 私は頷いて目を瞑った。



 私たちのブレーキは効かなくて……極上のイクラご飯は朝食になったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る