イクラご飯の作り方

碧月 葉

旬が終わった男?

 ひと回りも年下の彼女なんて持つもんじゃない。

 俺は太い息を吐き出した。


「付き合ってもう3ヶ月なんでしょ、馬鹿じゃないの?」


 妹は呆れた表情でシャンディ・ガフを飲み干した。


「ほら、今の子って貞操観念が高いって聞くからさ、ガッツいたら引かれるんじゃないかと心配で……」


 俺はちびりとジンジャエールを口に含む。

 妹は眉間に皺を寄せる。

 

「で、未だにシテないと……それで悶々とするって……10代並み、情けなっ」


 6つ下の妹に恋愛相談をしたら、手厳しい答えが返ってきた。

 

「デートは結構しているし雰囲気は良いんだよ。でもなかなか隙がないというか」


「おにいがヘタレってことね。……あとは、騙されてるとか。色々奢ってくれる便利なオジさんだと思われてて、彼女は別な所で若い男と……ってのもあり得るよね」


「いやいや、彼女に限ってそれは無いよ。それにオジさんて……」


「34歳、立派なオジさんでしょ。昔は多少モテたのかも知んないけど、もう旬は過ぎてるよ」


 妹はジロリとこちらを見た。


 確かに、前と比べると少し……ほんの少し広がった気がしないでもない額。

 鍛えるのをサボると直ぐに贅肉が付く体。

 目尻にも、皺?


 まだまだと思っていたけれど、旬は終わり?

 何やら、色んな自信が萎んできた。

 

「お前、励ます気ゼロだよな」


「お兄に気ぃ使ってどうするの。ここでモヤモヤムラムラしててもしょうがないと思うけど。彼女がどうしたいかあれこれ考える前に、お兄がちゃんと関係を進めたいっていう気持ちを伝えたら? そこで振られたらそもそもそこまでだったってこと」


「ですね」


「モタモタしていると『他に好きな人ができました』って言われちゃうよ。彼女だって欲求不満、溜まっているかも知んないし」


 妹が不安を煽るひと言を追加した時、彼女から電話がかかってきた。


美琴みことちゃんどうしたの? うん。えっ⁈ 大丈夫だよ、できるできる。待ってて、直ぐに行くから」


 なんというタイミングか。彼女の家に呼ばれた。

 速攻で身支度を整えて出ようとしたのだが、駐車場が空っぽだった。


 戻って妹に聞くと、


「あ、さっきお母さんたち出かけたよ」


「マジで……」


「私のロードバイク、使う?」


 絶望する俺に、妹が鍵を差し出した。


「サンキュ。じゃ、ピンチだかチャンスだか分かんないけど行ってくる」


「気をつけて。汗臭くても嫌われるからボディーシートも持って行きなよ」


「分かってる」


 サドルの高さを調節した俺は、紫色の空の下で風をきった。


 

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