傘を奪う罪悪感。


私は少しの罪悪感で簡単に心がひしゃげる。


それは正義感ぶってるわけでも、良い人ぶっているわけでもない。

私はそれこそ学生の頃は、宿題もよく忘れたし、遅刻したし、人に合わせることがあまりできないタイプだった。


だから正義感ぶっていない、良い人ぶっていないという理由にも何にもならないが。

とにかく自分が決定付けた選択肢は、何故か罪悪感に満たされ、後悔ばかりしてしまうのだ。


今回もそうだった。


「先輩。雨ですよ…。」


二軒目は結局私が奢り、店を出ようとドアを開けた瞬間に、雨音が聞こえ、嫌な予感はしていたが、やはりそうだった。


「えー。最悪。」


まあまあの降りようだった。

走って駅まで帰りたいが、勇気がいまいち出ない。

そんな雨。


「傘ありますよ!」


美優が私を呼び、店の前の傘立てを指差す。

おしゃれな花柄の傘や、きったないビニール傘等が、乱雑に傘立てに刺されていた。


「一本だけ!パクっていきましょうよ!」


「ええ?コンビニ行ったら買えるじゃん。」


「コンビニ行くくらいだったら、駅向かいますよ。」


「そらそうだ。」


説得させられてしまった。


「じゃあ、この紫色の傘で!」


美優は一本の紫色の傘を開き、私のそばへ駆け寄った。


「ほら、早くしないと終電間に合いませんよ!!」


「あ、そうだね。」


私の悪い癖がまた脳裏を掻き毟る。

紫色の傘の持ち主の今後がすぐに頭に浮かんだ。

困っている顔、憤怒している顔、色々な顔がフワフワと私の頭を浮遊する。

どうせ、私はこの傘に頼って帰るのに。

傘を奪う事は、私の中で決定付けられているのに、どうして私は自分で自分の後ろ髪を引っ張るのだろう。


私は少しの罪悪感を払いきれぬまま、紫色の傘へと入った。


「降るねえ降るねえ降りますねえ〜。」


美優はほろ酔い気分で肩を踊らせながら駅へと向かう。

彼女が揺れるせいで結局私の肩は雨で濡れてしまっていた。

でも、楽しく今日は帰れそう。

良かった。


良かった。


「じゃあ私、最寄り駅から家近いんで!傘使ってください!」


駅に着いた途端、美優は私に折りたたんだ傘を渡した。


「え!私も大丈夫だって!!」


「いや、先輩ですよあなた!もらってください!私のじゃないですけどね。あはは〜。」


「いやいや!本当に大丈夫だって!!」


「それでは、お疲れ様です!!」


美優は私の言う事を全く聞かないまま、ホームの奥へと消えていってしまった。


なすりつけられた…。


また乗せられてしまった…。


私、乗せられやすいなあ…。


私は右手に握った傘に目を下ろす。

ポタポタと水滴が地面に落ち、染みが広がっていく。


『この電車、最終電車となりまーす。』


終電のアナウンスが駅内に流れた。


私はますます大きくなる罪悪感と共に、終電へと乗り込んだ。

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フラムシカの紫傘 わさび大佐。 @qcmly

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