第60話 正一 二者二様
「ハァハァ、旦那様、お坊ちゃまが……ハァハァ」
「どうしたのだ、伊佐治、息を切らせて、まさか美津子さんから断られたのか……それなら、儂が交渉しよう」
不味いな。
正一は悪評が村で知られている。
出戻りの美津子さんなら流石にどうにかなる。
そう思っていたが……断られたか。
「違います。 お坊ちゃまが家を出て行きました」
「正一がか……」
「はい、この様な手紙が部屋にありました」
「あの馬鹿が、貸せ」
◆◆◆
親父へ
流石に40過ぎの美津子さんとの婚姻は無理だ。
しかも、結婚したら毎日抱き続けろなんて俺には出来ない。
今迄お世話になりました。
さようなら
探さないでくれ
正一
◆◆◆
「旦那様!? 連れ戻しましょうか?」
「もう良い……古馬本家の義務から逃げ出した者など、放っておけ。絶縁状を全部の家に送っておけ」
「宜しいのですか? 」
もう終わりだ。
「此処迄きたら、もう庇う事も出来ない。伊佐治、この家から無くなった物を全部調べてくれ」
「はい、それならもう、調べさせて頂きました。蔵は開けられた形跡はありませんが、金庫は壊されていました」
金庫には3千万入っていた。
金庫を見たら、それがソックリ無くなっていた。
これ位の金なら問題は無い。
だが、もう儂の跡継ぎが居なくなってしまった。
これで古馬本家は終わりだ。
「旦那様……」
「手切れ金代わりにこの金はくれてやる。だが親子の縁もこれまでだ……彼奴には2度とこの地は踏ませない」
「そこ迄しなくても」
「古馬の家を捨てたのだ……彼奴はもう他人だ」
糞っ、なんで正一は此処迄馬鹿なのだ……和也みたいな子だったら……これは言っても仕方あるまい。
◆◆◆
しかし、正一にも困ったもんだ。
色々と酷い奴だが、芽瑠を寝取ってくれた。
そこだけは間違いなく俺の為だ。
本当に馬鹿でどうしようもなく、美沙姉を罵る嫌な奴だが『友情はあるか』と言えばあった事になる。
なんてことは無い。
俺には他に友達が居ないから『親友』というなら正一になってしまう。
此奴が普段から馬鹿をやっていたのもあるが、俺を助ける為に芽瑠に手を出して、窮地に陥ったのは事実だ。
『何かしてやっても良いんじゃないか?』
そう思えてならない。
島田の爺さんの孫みたいに夢があるなら、その手伝いをしても良い。
だが、彼奴には……聞いた感じ無さそうだ。
彼奴が欲しいのは、恐らくハーレムだが……そんな漫画や小説みたいな話、実現なんて無理じゃないか。
大体、正一に女を繋ぎとめるような魅力が無いような気がする。
それが出来る男なら、あのチャンスでハーレムを築いているよな。
まぁ良いや。
頼ってくる事があったら、その時に手を貸してやれば良い。
「どうしたの和也くん」
「いや、考え事をちょっと……」
「仕事があるから大変だね。 ほらハマグリが焼けたよ」
「美味そうだね! それじゃ美沙姉食べようか? とってあげる」
「ありがとう」
美沙姉を取り戻すきっかけをくれたのは正一だ。
それだけは間違いない。
「これ、本当に美味しいな。今度はエビを焼こうか?」
「それも、美味しそうだね」
「生でもたべられるエビを焼いちゃうんだから間違い無いよ」
こんな楽しい日々を送れているのは正一のおかげでもあるのだから。
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