第33話 お姉ちゃんになる美沙姉
「美沙姉、この家殆ど手つかずだね! もう食べられないと思うけど食材まであるし……」
「いきなり、権蔵さんが此処にきて無理やり連れていかれて、そのままだから……」
無理やり?
「無理やりって……」
「嫌な思い出だから余り話したくないんだけど……」
「それなら、無理して言わなくても良いよ」
「ううん、和也くんには事情位話しておかないとね…….」
酷い話だった。
両親が死んで一人暮らしをしていた美沙姉。
幾らか残してくれたお金はある物の先行きに不安を感じて居たらしい。
アルバイトの募集に応募しても全部落ちて今後どうするか考えていたら……権蔵さんが相談に乗ってくれて『住み込みで働かないか?』そう言われたそうだ。
その話に美沙姉は飛びついた。
そうしたら……
「最初はね、高校にも行かせて貰えるはずだったの……だけどいざ権蔵さんの家にいったらね」
『住み込みで働くのに高校、そんなわけ無いでしょう? あんたが高校に行っている間仕事どうするんだ!』
『はぁ~旦那様が言った。馬鹿な事お言いでないよ! そんなわけあるかって……』
「怒鳴られた。全部が嘘だったんだ!その日のうちから私、裸にされて……弄ばれて、婚姻届けを無理やりかかされたんだ。抵抗したんだけど……最後は……沢山の人に『古馬家の当主との婚姻を拒むとは何事だって』暴力振るわれて、恐くて書いちゃったんだ」
女の子が裸にされ暴力を振るわれたら、逆らえるわけ無い。
まして、相手は村の権力者で、取り巻きまでいたら怖くて仕方がなかっただろう。
「そんな……」
「駐在さんに行ったんだけど『夫婦間の事に立ち入り出来ない』って追い返されたの、しかも給料も嫁なんだからと一切貰えず、私のお金も全部取り上げられてあとは和也くんの見た通りだよ」
汚いな。
古馬本家には唸る程金がある。
それなのに、なんでそんな事するんだよ。
「だけど、それならあの時なんで言ってくれなかったの? どうして一緒に逃げてくれなかったの」
「怖かったんだ!私は死んでも構わない。でももし捕まったら和也くん、殺されちゃうんじゃないかって『姦淫はこの村じゃ死罪だから、和也くんと逃げたら和也くんも殺す』って脅されていたの。和也くんが来てくれて凄く嬉しかった。私なんかの為に来てくれてたって……本当だよ!だけど私は常に見張られていたし、『和也くんが殺される』のが凄く怖かったの。だから、あの時手を取れなかったんだ、和也くんが死んだらそう思ったら怖くて……ゴメンなさい」
俺の為に……
「美沙姉が謝る事じゃないよ!確かにこの村じゃ姦淫は許されないから本当に殺されたかもしれない。やっぱり、あの時の俺は子供だったんだ。本当に後先考えないで馬鹿みたいだ。今思えば切羽詰まっていて『美沙姉の為なら死ねる』『美沙姉と一緒なら死んでも良い』なんて事ばかり考えていたよ。だけど、あの時一緒に逃げてもきっと良い結果になってないと思う。今になって考思えば『死ぬ事』じゃなく『どうやって生きるか』それを考えなくちゃいけなかったのに……」
「そうだね……だけど和也くん、本当に私の事が好きだったんだね……その凄く嬉しいよ」
「俺は美沙姉一筋だからね。 美沙姉に駆け落ちを持ちかけた時だって、子供なりにちゃんと計画してお金だって貯めていたんだ。都会に出てアパート借りて暮らせる位……300万円。それだけ貯めてから迎えに行ったんだよ」
「あの時の和也くんって18才だよね……そんなに……」
「美沙姉一筋だって言ったでしょう? 彼女も作らないで、遊びも一切しないで働いていたんだからそれ位はすぐ貯まるよ! 自営だしね」
「あっ、え~と、本当にありがとう……私の為にそんなに頑張ってくれていたんだ……本当に凄く嬉しい!」
「だけど、やっぱり俺、あの時は本当に子供だったんだな。お金さえ貯めればどうにかなるって思っていて『掟』の事なんてすっかり忘れていたよ。下手したら正一の二の舞になっていた。そう考えると自己嫌悪しかないよ」
「そんな事無いよ『駆け落ちしよう』って言ってくれた時も嬉しかったし、そして何よりもこうして私を迎えてくれて……本当にうれしいよ!和也くん」
こうして美沙姉が横に居る。
本当に頑張って良かった。
あの時、無理にしなくて正解だったんだ……本当にそう思う。
「そう言って貰えると俺も嬉しい。だけど、この家、殆ど手つかずの状態だね……古馬の家には何も持って行かなかったの?」
本当に時間が止まったように、昔のままに思える。
「お種さんが『古馬の嫁になる者は一切前の家の物を持ち込んではならない』って何も持ち込みさせてくれなかったんだ。裸にされて無理やり婚姻届け書かされた時に元から持っていた荷物も服も燃やされちゃった。古くからのしきたりなんでしょう?」
それは無いな。
「美沙姉、それは掟でもしきたりでもない『ただの嘘』だよ。正一の母さんの時は凄い花嫁道具を持ち込んだらしいからね。居間にある桐たんすとかその時の物らしいよ」
「私、そこでも嘘つかれていたんだ……」
「今度、お種婆さんしめておこうか?」
「今更良いよ、和也くんがしめたらお種さん死んじゃうから」
笑いながら美沙姉はそう言った。
本当に凄い。
俺が同じ立場だったら笑えないし、お種さんを袋叩きしそうだ。
「あははっ、そうだね」
「だけど、この家、思った程痛んでなくて良かったよ。掃除してごみを捨てて、洗濯物や洗い物したら住めそうだね」
「雨も漏ってないし、これなら大丈夫すぐに住めそうだ。だけど年末の大掃除並みに大変」
「だけど二人の新居だもん、頑張ろう和也くん! 頑張ったら和也くん。頑張ってくれたら、今日の夜はお姉ちゃん思いっきりサービスしちゃうからね」
「本当は美沙姉がしたいんじゃないの?」
「あっ!!和也くんそんな事言うんだ。だったら今夜はお預けにしちゃおうかな?」
「ごめん、美沙姉」
「うんうん、和也くんは旦那さまだけど弟でもあるんだから、素直なのが一番だよ」
「そうだね」
最近の美沙姉は良く笑いながら話してくれる。
そして、偶に『お姉ちゃん』になる。
それが昔の美沙姉に重なって凄く嬉しい気分になる。
「あっ! いま面倒くさいなって思ったでしょう? だけどお姉ちゃんって面倒くさい生き物なんだよ!」
「いや、美沙姉の事を可愛いと思った事は沢山あるけど、面倒くさいなんて思った事は無いよ」
「そう、私m可愛いんだ!だったら『お兄ちゃん』って呼んであげようか?」
美沙姉がニコニコしながらそう言ってきた。
「美沙姉……流石にそれは無い」
「そ、そうよね、年上だし、流石に冗談よ……冗談!」
だけど、その日の夜、体操服とブルマで恥ずかしそうにサービスしてくれた美沙姉を見て、俺は『まだ高校生で行けるかも』とちょっと思った。
最近の美沙姉は、昔の様によく笑うし冗談も言うようになった。
そんな美沙姉を見ていると、本当に頑張って良かったな。
そう思う。
俺の初恋は叶ったし、努力は報われたんだから。
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