第34話 正一 過去 涙


俺と真理愛は隠れて体を重ねる事が多くなった。


決まり事は『一線だけは越えない事』


当たり前だが、俺は古馬本家の息子だし、真理愛も次女とはいえ南条家の人間。


万が一、子供が生まれたら、俺達だけの問題じゃなく家を巻き込んだ大事になる。


それに、一族的な問題で将来、婚約者を設ける話が出るかも知れない。


だから、期間限定の付き合い。


そういう割り切った関係だ。


旧家の人間の恋なんてそんなもんだ。


実際に俺の親父と母さんも政略結婚だった。


母さんはそれなりの関係を築こうとしたが……結果は無駄だった。


しかし、親父はなんであんな家畜を後妻にしたのか?


どう考えても『若くて綺麗な女』それしか魅力がない。


調べた範囲で紺野家が何か力を持っていた。


そういう事も無さそうだ。


16才の女が欲しかったのか?


まさかロリコンだったのか、そう思ったが……


親父の妾や過去の愛人は、ちゃんとした成人だった。


なんであの牝豚が必要だったのか、俺には解らなかった。


俺も真理愛もお互いに好きだという感情はあるが、将来結ばれるかどうか家の都合で解らない。


その時になって困る位ならば、期間限定の割り切った関係で充分だ。


他に縁のない相手を探そうにも、こんな往復3時間近くかけて通う様な人間がつき合えるのはこのメンバーだけしかいない。


真理愛と逢瀬を重ねていると、やがて恵子に見られて仲間に恵子が加わり、そして最後に芽瑠が加わった。


友情はあるが愛情は薄い。


それでいて体の関係がある(一線は越えていない)


不思議な関係……それが俺たちだった。


ハーレムであってハーレムじゃない。


だって、将来は解散する事が決まっている。


旧家ゆえ相手を自分で選べない俺達だからの、歪な関係だ。


◆◆◆


最近になり気がついた事があった。


それは『親父が勃起した所を見た記憶が無い』


今でこそ美沙は家畜のような女だが、最初は綺麗なお姉さんだった。


その時でも親父はのアレは勃っていなかった。


普通にあそこ迄女にされたら、勃たないわけが無い。


どう言う事か伊佐治を問い詰めたら……


『絶対に他言をしないで下さい。ばれたら大問題になりますから』


親父はインポだった。


伊佐治の話だと、浮気で他に子供を作られては困る。


そう言った理由で母さんはパイプカットを親父にさせたらしい……


だが、親父の女癖の悪さは妊娠を気にしないで良いからか、更に増し、生でしているもんだから、とうとう性病になった。


親父は上手く母さんを誤魔化して病院に通っていたようだが、母さんはそれに気がつき、後ろから手をまわして医者に金を積んでEDにしてしまったらしい。


母さんなりの復讐だったんだな。


『そう言う事か』


『はい、ですが奥様の方法はある意味悪手でした』


『悪手?』


『はい、男という物は『射精するから満足が出来、終わるのです』それが出来なくなった旦那さまは、行為がねちっこくなり何時までたっても終わらないのです』


『終わらない?』


『はい3時間たっても5時間たっても満足できないから終わらないのです。そのしつこさから、充分な手当てを貰っている愛人や妾が旦那様から逃げていった程です』


そうか……だから美沙を欲しがったわけか。


一応、辻褄はあうが、それなら飽きたいま何故手放さないんだ。


『決して他言はしない。教えてくれてありがとう』


『本当に他言無用でお願いします』


『解った』


俺や真理愛の勘違いだったのか、だが今更説明する必要は無いな。


親父の醜聞になるしな。


◆◆◆


相変わらず和也は忙しく働いている。


小さかったスーパーも拡張され大きくなった。


それにとうとう2号店がこの村にも出来る。


村と言っても大きい。


住んでいる場所によっては和也のスーパーが遠い所もある。


だが、2号店が出来れば、その遠い所の人間も困らなくなる。


和也の才能はこんな所でも発揮されている。


凄い奴だよ……一点を除いてな。


相変わらず和也は、牝豚が好きなようだ。


何かと理由をつけてはエサをやっていた。


あの牝豚だって、いい加減それが『賞味期限が切れた物じゃない』位気がついていそうだ。


最初は和也は持たせていたが、取り上げられている事に気がつきその場で食べるように牝豚に言っていた。


食事はそれで良い。


だが、他は上手くいかなくなった。


そりゃそうだ……今迄汚かった人間が清潔になれば、すぐに解る。


和也が渡していた試供品はすぐに取り上げられるようになり、元の薄汚い家畜に戻った。


『そんなにそいつが良いのかよ』


食事が手に入らない牝豚には余裕が無いのか、前と違いその汚い姿でも和也の前に現れるようになった。


『美沙姉、今日はケーキもジュースも余ったんだ……食べて行ってよ』


『和也くん……ありがとう……ありがとうね』


良くもまぁ、あの姿で和也に会えるもんだ。


だが、そんな牝豚を見る和也の目が変わって行くのに気がついた。


『憎しみの目だ』


まずいな、和也がそろそろ限界なのかも知れない。


俺がどうにか出来る範囲で納まってくれればよいが、まさか親父を殺したりしないよな。



◆◆◆


それから3日後、和也は行動を起こした。


夜遅くまで働いていた家畜の前に和也は現れた。


『美沙姉、俺は、もう美沙姉が酷い目にあわせられているのを見るのが耐えられないんだ、俺が美沙姉を支えるから一緒に逃げよう』


和也の差し出した手が震えている。


これは和也にとって苦渋の決断だ。


『和也くん……私!……和也くんの気持ちは凄く嬉しい……だけどね、ゴメンなさい和也くんといけない』


『大丈夫、俺頑張ったんだ、美沙姉と……』


『ごめんなさい……うっうっ和也くんの優しさは一生忘れない。だけど……だけどいけないの』


『美沙姉……俺』


和也が泣き始めた。


泣くのを必死で我慢していたのかもしれないが涙が目に溜まり流れ落ちた。


『泣かないで、泣かないでよ……お願い』


『俺、美沙姉が……あっうんぐっ』


あの家畜! 和也にキスなんて……


『私にはこんな事しか出来ない……これ以上は何もしてあげられない……だけどね、私が自分からキスをしたのは和也くんだけだよ……見られたら和也くんが困るから、私いくね……ありがとう、そしてゴメンなさい』


それだけ言うと牝豚は走ってどっかに行ってしまった。


親父の尻すら舐めた口で良くもキスなんて出来たもんだ。


歯磨きも碌にさせて貰えないからきっと口だって臭いだろう。


牝豚の癖に……和也にキス……


和也が姦淫をしなでくれて助かった。


だが、この村から連れ出したい位好きなのかよ。


泣く位好きなのか……そんな和也の顔を俺は見た事が無い。


泣きながらトボトボ歩く和也を俺はただ見つめる事しか出来なかった。




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