第19話 これは謝罪......じゃない。


折角、美沙姉と結婚できたのだから、結婚指輪を用意したいし、新婚旅行にも行きたい。


この村には貴金属店みたいな洒落た店なんてない。


だから、東京に行って買い物をして、その足で新婚旅行に行くのが良いかも知れない。


国内なら熱海か箱根。


いっそうの事海外でハワイやグァムも良いかも知れないな。


だが、それは全部終わってからの話だ。


まだまだ、なにかありそうな気がする。


幸い、スーパーは優秀な店長がいるから任せて安心だ。


俺は社長だがマネージメントがメインだから、暫く放っておいても問題は無い。


◆◆◆


また、インターホンが鳴った。


やっぱり伊佐治さんか。


今回正一がやったことは三股だ。


これは掟じゃ問題は無いが、よりによって全員が財力、権力がある令嬢。


家と家の結びつきを重んじる村社会じゃ大きな問題だ。


簡単に言うなら公爵家の令息が未婚の伯爵家や男爵家の令嬢三人に手を付けた。


それに近いかも知れない。


しかも、相手は違う村の人間。


流石に不味いだろう。


「伊佐治さん、今日はどう言ったご用件ですか? もう俺との話は終わった筈です」


「その通りでございます! ですが、今日は『どうしてもお坊ちゃまや旦那様がお詫びをしたい』そう言うのです。だから来て欲しいのです」


『お坊ちゃま?』という事は正一は古馬本家に残るのか。


「伊佐治さんが『お坊ちゃま』と呼ぶと言う事は古馬本家になにか動きがある。そういう事ですか?」


「ええっ! 旦那様にも困ったものです。あのような愚か者をまだ庇うんですから」


「それは聞かなかった事にします。 ですが、一人息子なのですから溺愛するのも仕方ないんじゃないでしょうか?」


「そうですね……これ以上は仕える者として言ってはいけませんね。 それで、本来は謝罪する側が出向くのが当たり前なのですが、お坊ちゃまが外出できない為、こうしてお迎えに参りました」


美沙姉には良くない話の可能性が高い。


「解ったよ……美沙姉ちょっと行ってくる」


「行ってらっしゃい」


美沙姉に見送られ俺はまた古馬本家に出向く事になった。


◆◆◆


しかし、自転車でも行ける距離をベンツで移動。


面子って本当に大変だな。


自分が行けないから、客人として招いた。


そういう事実が必要なのか。


もう、俺との間で話は終わっている。


ここから、なんの詫びが必要だっていうんだ。


考えながら車に乗っていると、すぐについた。


そのまま伊佐治さんについて家のなかに入る。


本来なら此処で使用人やら主の挨拶があるのだけど、今日は無いな。


「驚きですかな? 今日はちょっと特殊ですので、直接此方へ」


「この先にあるのは……まさか座敷牢。あそこに正一が入っているのか?」


「左様でございます」


まさか、座敷牢に正一が入っているのか……


「よう、和也久しぶりだな!」


「正一、お前何やっているの?」


元気そうだな。


「お話の途中、すみません私は席を外させて頂きます。お坊ちゃまのお詫びがすみましたらお声かけ下さい。権蔵さまからもお詫びがございます」


「解ったよ。終わったら声を掛ける。 それで正一は何をしているんだ? 聞いた話では、三人の中の誰かと結婚して婿になる。そういう話じゃないのか? それで話は終わったのでは?」


「いや、それな。 だが、俺はどうしても古馬本家から追い出されたくない。 そこで芽瑠を口説いて、責任を取る形で村の重鎮に納得して貰おうと思ったのだが、失敗したよ」


「いや、お前ハーレム作ろうとしていたんだろう? 三人を完璧に口説いていたんじゃないのか? 普通に考えたら本妻1人にお妾さん2人、3人は納得していたんじゃないのかよ」


「その筈だったんだよな。その状態だったから三人じゃなく芽瑠1人に絞れば絶対に受け入れてくれる。そう思っていたんだ」


「そうか……まぁ正一は御曹司でイケメンだからな……」


「まぁ、結果は失敗だ」


「それで、なんで座敷牢に入っているんだ?」


「村の重鎮に対して『反省している』ように見せる為だ。 こうしていれば、周りからは反省している様に見えるだろう」


「それは解ったが、俺はなんで呼ばれたんだ」


「金銭や取引でなく、ちゃんと直接詫びを入れた。その事実が必要なんだよ」


「それ、俺に言って良いのか?」


「まぁな、それで許してくれるんだろう?」


「俺の方は、もう話が終わっているんだから、許すも何もないだろう」


「そうだな、確かに、あの陰気な女美沙と三千万で手打ちだから終わっているな」


「おい、美沙姉は今は俺の嫁だ。その言い方はやめろよ」


「お前、親父のお古と結婚したの? マジで? 」


「ああっ……だが、お古って言うのは間違いだ。 美沙姉の初めては俺が貰ったんだ」


「そうだろうな……親父インポだし」


「あのさぁ、聞きたいんだが権蔵さん、なんでインポなんだ。お前が居るんだから、生まれながらって訳じゃないだろう?」



「それな、特別に教えてやるが、親父が余りにも女遊びするもんだから母さんが俺が生まれた後にパイプカットさせたんだ」


パイプカットは避妊手術だ。


だからって勃たなくなることは無いよな。


「パイプカットしたからってEDにはならないだろう?」


「それな、親父はパイプカットした後、妊娠しない事を良い事に遊びに遊びまくった。その結果性病にかかったんだ」


「その性病でEDになったのか......」


「表向きはな、だが本当は違う、親父は気がついてないんだが、性病の治療の時に、親父に気がつかれない様に医者に母さんが金を積んでEDになる薬を混ぜさせたんだ。さんざん浮気に泣かされた母さんなりの復讐だったんだと思う」


「そうか、それでED、インポになったのか……」


「まぁな、だが、恐ろしいことにそれでも親父の女癖は治らなかったんだ」


「勃たなきゃ流石に出来ないだろう?」


「それが勃たないからこそ性欲が増して可笑しくなったんだよ。男って出せば落ち着くだろう。だが、勃たないと言う事はいつまでたっても出せないから終わらないんだぜ。それで長い時間、ねちっこくするんだ、女は溜まったもんじゃない、何時終わるか解らない責めが続く、あれはまるで狂人だね。結構な額を払っていた愛人も嫌がって逃げた位だ」


そんな……


「そんな親父が逃げた愛人の代わりに目をつけ、おもちゃにしていたのが、お前が貰った美沙だ。やれないんだから、まぁ処女だろうが、ただそれだけだ。それ以外でやられてない事もやってない事もないんだぜ。親父の尻まで舐めたような汚い女、俺なら金貰っても欲しくねーよ」


「黙れよ……美沙姉は俺にとってそれでも大切な人だ」


「お前は昔からそうだな、なんでも大切にするもんな……まぁ良い、それじゃ……今回の件は俺が悪かった。この通りだ……これで終わり。本当にそれでいんだな!」


話しを聞けば聞くほど胸糞悪い。


覚悟はしていたから、話しを聞いても美沙姉を嫌いになんてならないし、汚いなんて思わない。


寧ろ余計に幸せにしてあげたい。


そう思った。


「約束だから、今更反故になんてしない」


あたりまえだようやく美沙姉を取り返せたんだから。











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