第18話 美沙SIDE 家族

「ねぇねぇ和也くん! お姉ちゃんになにかして欲しい事はないかな?」


「え~と『お姉ちゃん?』」


「そう……お姉ちゃん」


「美沙姉、どう言う事?」


「さっき、聞いちゃった。私って和也くんにとって『『姉』で『家族』でもう誰にも奪われたくない存在なんだよね』それで和也くんはシスコンなんでしょう? それなら、お姉ちゃんに偶にはなってあげようかな……なんてね!」


「美沙姉、聞いていたの?」


「うん、別に盗み聞きしてたわけじゃないよ? だけど、あんな大きい声で話していたら嫌でも聞こえちゃうよ」


「なんだか恥ずかしいな」


「そんな事無い……和也くん、私本当にうれしいよ」


和也くんは恥ずかしそうに顔を赤めた。


凄く可愛い......私の弟で旦那様だ。


◆◆◆


私は権蔵さんに無理やり後添いにされた。


自分の父親の様に歳を離れた存在に無理やり抱かれる日々は地獄だった。


それでも、そんな地獄の中でも、ちょっとだけ希望は持っていたんだ。


汚されてしまったから和也くんを見るのが辛い。


そんな私の最後のささやかな希望は『家族』だった。


大嫌いな人間、自分を蔑む人間しか居ない古馬家。


それでも、頑張れば家族になれるのかな……そう思っていた。


寂しかったからかも知れない。


他に行く当てがないからかも知れない。


全てを失った私が、もしかしたら手に入れられるかも知れない、最後の希望が『家族』だった。


愛なんて無い。


自分の父親みたいな年齢の男に無理やり後添いにされて愛せる人間なんて居ない。


愛するなんて簡単には出来ない。


だけど、愛すように努力はした。


『家族』として扱って貰えれば……それで良い。


それだけしてくれるなら今は無理でも、自分の中で頑張って『愛すように努力しよう』


そう思って頑張った。


だけど、違った。


権蔵さんが私に求めたのは『若い体だけ』だった。


後妻というのは名前だけで、実際の扱いは使用人以下の奴隷扱い。


食事は使用人が食べた後の残り物しか与えられず、使用人が食べ終わった後の台所で1人で食べていた。


お風呂だって全員が入ったあとに入り、あとかたずけと掃除をしていた。


一番遅くまで仕事をさせられて、朝は誰よりも早く起きて仕事をしなくてはならなかった。


寝る時間なんて4時間もあれば良い方だった。


そればかりじゃない、私を抱いている時も行為の後も権蔵さんは私を罵ってばかりだった。『つまらない女』『人形みたいだ』散々弄んで、罵倒されるだけ。 望む様に頑張っても優しい言葉一つ無かった。


そんな人間をどうしたら愛せるというの。


だから、私は権蔵さんに抱かれる時はより表情を作らず、声を上げない様にした。


『つまらない女』『人形みたいな女』それで良いんでしょう......


それが気にいらなかったのか、暴力を振るわれる様になり、最後には私が泣き叫ぶ姿を見たいが為に 火箸を炙った物を押し付けてくるようになった。


火傷をし泣き叫ぶ私の姿を見ながら権蔵さんは『なんだ、声が出るじゃないか』と蔑む様に冷めた目で私を眺めていた。


風呂上りに正一さんに裸を見られた時は恐怖から慌ててタオルで体を隠した時もあった。


酷い目にはあわなかったけど......


『俺は人間にしか興味はない。親父のおもちゃで家畜みたいな女を母とも思わないし、女とも思えない。牝馬をみて欲情する男は居ないだろう? 寧ろ目障りだよ、そんな貧相で汚れた体なんて見たくもない。とっとあっちに行けよ』そう言われた。


ほっとした反面……凄く惨めに思えた。


母親じゃなくただの使用人以下、ううん、もっと下家畜と同等にしか私は見られていない。


それが良く解った。


正一さんが贅沢をしている姿を見れば見る程、自分がより惨めに思えた。


後妻なのに使用人も『美沙』と呼びつけ一番誰もがやりたがらない家畜の世話、その中でも一番汚い糞の処理などがあてがわれていた。


自分が馬や牛の家畜みたいな存在、ううん、古馬本家では、それ以下なんだと自分でも思うようになっていった。


結局私は、どんなに我慢しても頑張っても使用人以下の奴隷、家畜以下にしか思って貰えない。


そう思い知らされた。


唯一の救いは権蔵さんのおもちゃだから、厭らしい目で見て来るだけで、他の男が手を出してこない……それだけだ。


最後の望み『家族』になりたい。


それすらも、元から私には許されていなかったんだ……それが解ったから私は心を閉ざし、人間らしい心を捨てた。


そうしないと多分私が壊れてしまうから......


そんな私を和也くんは『家族』だと言ってくれた。


『姉』だと言ってくれた。


私は和也くんにとって『家族』で『姉』でそして『妻』なんだ。


只の妻や恋人じゃない。


『お姉ちゃん』でもあるんだ。


それが凄く嬉しい。


和也くんの心を、家族を独り占め出来たみたいで凄く嬉しい。


望んでも手に入らなかった物を全部くれた。


そんな和也くんになら、私は自分からなんでもしてあげたくなる......


◆◆◆


「それじゃ昔みたいに、膝枕して耳かきをして欲しいな」


そういえば、和也くんが子供の頃良くしてあげたな......


「勿論良いよ! だけど、それだけで本当によいの?」


「え~と」


「昔、みたいに一緒にお風呂入ろうか? お姉ちゃんが背中流してあげる」


「いいの!?」


「勿論……良いよ」


和也くんにならね。


顔を真っ赤にして嬉しそうにして……鼻の下が伸びているし……凄く可愛い。


耳かきを早々に済ませて二人でお風呂に入った。


「ちょっと美沙姉……」


背中を流しながら私は和也くんを後ろから抱きしめた。


勿論、胸をあてて。


もう、これ以上の恥ずかしい事をしているのに.......また、顔を真っ赤にして凄く可愛いな。


和也くんは興奮して、振り返り私を強く抱きしめた……気がつくとお風呂に2時間も入っていたよ。


今の私は『お姉ちゃん』だけじゃなく『妻』なんだもん。これは、うん仕方が無い。


だって和也くんは私にとって『弟』で『夫』でそして……


この世で立った1人の『家族』なんだから。


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