第5話 過去から今へ


俺はいつかこの村を出て行ってやろうと思っていた。


そして出来るなら、その時には美沙さんを連れて……そう思っていた。


だから、俺は……元からの稼業である農家を捨てた。


農家なんてやっていたら、全部捨てて出て行かなくてはならない。


だから、『農業をやめてスーパーをやりたい』


そう両親に告げた。


最初、両親は俺がこの村を出て行くのではないかと思い反対していた。


だが、『この村は高齢者が多く買い物するのに不便だから、買い物できる場所を作りたいんだ』


そう熱心に話、認めて貰った。


これで、お金が溜まればこの村を出て行く。


そういう選択もできる。


そう思っていた。


商売は俺が思った以上に上手くいった。


元からお店が無かった地域に出来たスーパー


高齢者が多い村。


利用しない訳が無い。


この村から逃げ出す資金はすんなり溜まった。


親は農業をしているし田畑があるから生活に困らない。


この店も残していけば売れば幾ばくかのお金になる。


これなら……


そう思い……美沙姉に


『一緒に逃げないか』そう誘った。


返事は


『ゴメンいけないわ……』


そう言う答えだった。


『何故』


食い下がり、そう聞いた。


『私汚れちゃったから……そんな資格はないわ。それに和也くんと一緒に行っても邪魔しちゃうだけだから。私みたいな女忘れて他の人と幸せになって』


振られて終わった。


もう終ったんだ……そう思っていた。


もう、ここに居る美沙姉は俺の美沙姉じゃない。


そう、自分に言い聞かせた。


だが、自分の好きな美沙姉が不幸の中に居て、好きでも無い男に抱かれている。


そう思うと、切なくて胸が張り裂けそうになる。


『クソッ』


どうにか、美沙姉の事を忘れようとして、少し心が落ち着いた時……両親が亡くなった。


これで一人ボッチだ。


そう思って葬儀を済ませたあと、俺は喪失感に襲われた。


家で泣きながら日々過ごしていると美沙姉が来た。


美沙姉は俺が泣き止むまで、黙って俺を背中から抱きしめてくれた。


自分は俺処じゃない位不幸なのに……美沙姉は昔のまま優しかった。


だけど……どんなに思っても美沙姉には手が届かない。


俺が思い続けると美沙姉が苦しむ事になるかも知れない。


そう思い……他に目を向ける事にした。


仕事を頑張り、スーパーの2号店を隣の村にオープンした。


気がつくと従業員は20人を超えスーパーは3店舗になっていた。


どんなに思っても美沙姉とは結ばれる未来はない。


心に踏ん切りをつける為に、他の女性にも目を向ける事にした。


近隣には適齢期の子は少ない。


幸い、男2人に女が3人普通に考えてあぶれることはない。


正一は性格は悪いが友達だ。


彼奴が好きな相手はやめて残った相手から将来のパートナーを探せば良い……美沙姉じゃないなら誰でも良いんだ。


そう考えていたら、東条家からお見合いの話が来た。


正一は南条や北条の家の子と仲が良いから……俺にとそうなったのかも知れない。


芽瑠の親はメロンやスイカを扱う裕福な農家、いわゆる豪農という奴だ。


ビジネスパートナーとして丁度良い。


うちのスーパーが多少仕入れて販売しているし、仕入れ先で仲良くなったデパートの社長が高級なメロンを扱いたいという話があり、東条家と企画のすり合わせをやっていたのに……今回の不倫騒動だ。


この村じゃ婚姻は当人同士もあるが、家同士の結びつきでもある。


それを馬鹿みたいに無視しやがった。


姦淫はこの村じゃ重罪だ。


今迄、恐れていたこの『姦淫』がまさか自分の味方になる日がくるとは思わなかった。


これは……もう二度とないチャンスだ。


俺の中で何かがこみ上げてきた。

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