第4話 過去 美沙姉との苦い思い出


美沙さん。


美沙さんは俺の初恋の人だった。


都会から田舎暮らしを夢見た両親と引っ越してきた彼女。


まだ、小学生だった俺は5つ年上の美沙さんに恋をした。


長く綺麗な黒髪に色白の大和撫子という言葉が似合う美人。


他の人は日焼けして黒く肌がなるなか、美沙さんはほんのりと赤くなるだけ。


この辺りに住む女の子とは全く違った。


まだ、子供だった俺は美沙姉と呼んで慕ってもいた。


子供だけど、子供なりに真剣に恋していた。


『大きくなったら美沙姉と結婚したいな』


子供なりにお小遣いを溜めてブローチをプレゼントしてプロポーズした。


子供の癖にませている。


そう言われればそうかも知れない。


それでも真剣だった。


それは本心じゃないのかも知れない。


仲の良い子供に言った、ただのリップサービスかも知れない。


『和也くんが大きくなったらね』


そう美沙姉は返してくれた。


それが凄く嬉しかった。


その返事を貰った日、眠れなかったのは今でも覚えている。


『子供の事だから何時か冷めるでしょう』


そう俺の親も言っていたが、俺の熱は冷める事はなかった。


本当に6年たったら、正式に結婚を申し込む。


そう決めていた。


だが、そんな夢は脆くも崩れ去った。


美沙姉の両親が車で出かけた時にがけ崩れにあい亡くなってしまった。

『うっうっうわぁぁぁぁん、お父さん、お母さん』


『……』

子供だった俺は、ただ泣いている美沙姉を後ろから抱きしめる事しか出来なかった。


だが、これが美沙姉の不幸の始まりだった。


美沙姉には頼れる親戚が居なかった。


ここが都心なら簡単に仕事を探して生きていける。


だが、こんな田舎じゃ真面に仕事なんか探せない。


いや、もしかしたら権蔵さん辺りが裏で古馬の力で圧力をかけたのかも知れない。


美沙姉はまだ16歳なのに、権蔵さんの後妻になった。


どんな形でも妻になってしまえば、この村ではもう駄目だ。


古くからの風習で『姦淫した者は殺されても文句が言えない』そういう決まりがある。


だけど、子供の俺は諦められずに、気がつくと美沙姉の所に行っていた。


窶れていたが美沙姉は笑顔で挨拶してくれる。


だが、昔みたいに話してくれなくなった。


話しをしようとすると『ごめんね!家の仕事があるから』とすぐに行ってしまう。


この時の俺は気がついて無かった。


後妻とは名ばかりで、美沙姉は馬車馬のように働かされていて、家のなかではまるで下働きの女中みたいに扱われていた事に……


もう俺には何も出来ない……


それでも、俺は美沙姉に逢いたくて……ただ逢いたくて逢いにいったり、遠くから眺めていた。


美沙姉が幸せだったら諦めがついたかもしれない。


美沙姉が不幸だったから、余計に諦めがつかなかった。


子供ながらに、いつか美沙姉を俺が幸せにしてあげるんだ。


そう誓っていた。


◆◆◆


あれは八月の暑い日だった。


いつもの様に美沙姉を探していた。


村の中は開放的で、窓をあければ涼しいので余程暑く無ければ、夏場はエアコンもつけずに窓を全開にしている。


村人どおし悪い事をする人は居ないと思っているのか鍵もかけていない。


よく昔のドラマに出てくる様な縁側があって家のなかが見える家ばかりだ。


だから、俺は家の仕事をしている美沙姉を遠くから見る事が出来た。


この時間なら、洗濯している美沙姉が見れる……そう思った。


だけど、この日は違った。


美沙姉が居なくて、縁側の障子が開いていた。


『嫌ぁ嫌ですよ……やめて下さい! せめて昼間はやめてーーっ』


『美沙、お前は儂の妻だ、こういう仕事も妻の仕事じゃ』


そう言いながら権蔵さんが美沙姉に馬乗りになって服を千切る様に脱がしていた。


『嫌です……嫌、やめてください…..お願いします』


『これは妻の務めだ……今日が初めてじゃないだろうが』


『せめて……せめて夜だけにして下さい。汗だらけで……お風呂位は……』


パンッ


『煩いわい! 身寄りのないお前を引き取り妻にしてやったのは儂じゃ逆らうでないわ! 逆らうなら裸で家から放り出すぞ』


美沙姉は頬っぺたを腫らし口から血を流していた。


『解りました……どうぞお使い下さい……』


『解れば良いんじゃ…しかし美沙は辛気臭くてたまらんわ。器量は良いがまるで人形みたいに何も反応せん……少しはおなごらしく、喘ぎ声の一つでもあげんか』


『……』


それから美沙姉は服を完全にひん剥かれ、おもちゃの様に自由にされていた。


ただ、何をされても目に涙を浮かべてはいるものの、人形の様に無言だった。


俺は止めに入りたかったが、掟が怖くて出来なく、ただただその場所に立ちすくんでいた。


そして、美沙姉と目があってしまった。


美沙姉が口を開いた。


声は出していない。


だが、何を言っているのかは良く解った。


『みないで……もうこないで』


そう言っているのがはっきりと解った。


この日、俺は本当の意味で初恋を失った。







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