第4話 岩穴の盗賊
「おいおい、こんなところを女の子が一人で歩いてちゃあ危ないぜ」
「ここは俺たち岩穴の盗賊の縄張りだって、知らなかったのかァ?」
これは、スターズの面々が盗賊退治に出る前日、その夕暮れ時の出来事である。
少女が一人で街道を歩いていたところ、その前方を四人の男が塞いだ。
「なかなかいい女じゃあねえか。おい、こいつ持ち帰るぞ」
リーダー格らしき男が言うと、盗賊たちは舌なめずりをしながらじりじりと少女に近づいていく。
少女は護身用にと、我が子の心配をする両親から持たされた剣を腰に装備しており、男に対し少女は震える手でその剣を抜いて構えた。
「ヒヒヒヒヒヒッ! 震えちゃって可愛いねえ。俺たちに勝てるのかなぁ?」
盗賊の中の一人が笑う。
少女は一人で旅が出来る程度には戦闘能力を有していた。
しかし、少女はその戦闘能力を人に向けて発揮したことは無く、少女の震えは、人に剣を向けるという初めての行為に対するものであった。
「四人くらい、私一人で倒せるわ……!」
意を決して、少女は手に持った剣へ魔力を込める。
が、それが盗賊たちに届くことは無かった。
「あぅっ!」
道の脇の草むらから突如として矢が射られ、彼女の腕に刺さる。
「四人だけとは言ってないんだなあ、これが」
草むらから出てきた女が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら姿を現した。
「くっ」
少女は女を睨む。そうして、少女の意識が逸れた瞬間、木の上から声がした。
「“バインド”」
「きゃっ!?」
声と共に木の上から飛んできた縄が少女へと巻き付く。少女の身体は縄でぐるぐる巻きにされ、動きを封じられてしまった。木の上に魔法使いが待機していたのである。
「よし、よくやった。傷つけずに持ち帰りかったが、まあいいだろう。じゃ、こいつを連れていくぞ」
リーダー格の男がそう言うと、盗賊の一人が身動きの取れない少女を担いだ。
「い、嫌! やめてっ!!」
当然、少女の言葉などに聞く耳を持たない盗賊は、へらへらと笑いながら少女を自分達の住処へと運んでいくのであった。
――――――――――
「さあゆくぞ、メルト、リーダー! 岩穴の盗賊何するものぞ!」
「張り切ってるなぁ」
大声を出しながら歩くシェディの後ろを、アルデとメルトはついていく。
三人が退治することになった岩穴の盗賊は、有名な盗賊団の名である。その名の通り、岩穴を拠点とし、各地を転々としながら商人や旅人を襲う迷惑極まりない連中で、その被害数はかなり多い。
「で、街道に出たわけだけど、ここから盗賊をどう見つけるつもり?」
「当然、拠点を探して叩く」
「うーん、そう簡単に見つかるかな……」
「案ずるな、岩穴を住処にしているという情報さえあれば、この程度造作もない! ふはははははははっ!!」
シェディの自信満々な笑い声が辺りに響いた。
「もはやこの笑い声に釣られて向こう側から襲いかかってくれたら楽なんですけどね〜」
自分でもそんな展開にはなりやしないだろうと、笑いながらメルトが呟く。
「いやあ、そう上手いこと行かないでしょ」
アルデは首を横に振って返した。
「おいおいおい、危ないぜえ? そんな大声出しながら歩いてちゃあ……」
「俺らみたいな悪人に狙われちまうからな!」
「女もいるな……ヒヒッ、顔も身体も悪くねぇ、昨日に続いてとんだご馳走じゃねえか。来てよかったぜ」
街道に入り、三人が歩くこと三十分。シェディの声に釣られてなんと盗賊たちが現れた。
「上手いこと行っちゃったよ」
「言った私が驚くのも変ですけど、まさか本当に来るとは……」
冗談のつもりだったのだが、本当に笑い声に釣られて盗賊が来たことに、メルトは驚き、半ば呆れた。
岩穴の盗賊たちは、昨日捕らえた少女が持ち物も含めて“当たり”だったことに気をよくして、調子に乗っていた。
多少名が売れているとはいえ、所詮性根はその辺の盗賊に過ぎない。彼らは欲をかいて標的を探し、そしてシェディの笑い声を聞いて三人の前へと立ちふさがったのだ。
「岩穴の盗賊だな」
シェディが冷たい眼差しを、男たちへと向ける。
「なんだ、俺らの事を知ってるのか。知ってた上でそんな大声を上げながら歩いていたとは、相当な命知らずか、もしくは、相当腕に自信があるかだが……」
盗賊のリーダーである男が、両の手に持った剣を構えながら言った。
「ふ……ふふ……ふふはははははははははははっ!」
「あ? なんだこいつ。いきなり笑い出したぞ」
顔に手を当て、シェディは大声で笑い始めた。盗賊の面々は、シェディへ困惑の視線を向ける。
やがて、その顔に笑みを浮かべながら、彼は芝居がかった身振りで語り出した。
「こちらから住処を見つけるつもりが、まさか相手の方からのこのこと出向いてくるとはな! 好都合だ!」
「はあ、なるほど。元々俺らが目的だったのか」
リーダーの男が言う。
「だが、俺らをやれると思ってんのか?」
「はっ、当然! 貴様ら四人如き、我らの敵ではない!」
盗賊たちはニヤリと笑う。どうやら、この男は潜んでいる二人の存在に気付いていないようだ。なら一人は毒の矢で痺れさせ、一人は拘束の魔法で不意を突く。そうして行動不能にしてしまえば、残りの一人を数の暴力で無力化してしまえばいい。
ああ、俺たちはツイている。昨日に引き続き今日も獲物に出会うなんて。と、盗賊たちは考えていた。
だが、そんな彼らの思考は、この一言によって破壊された。
「いや六人だよ、シェディ。そこの草陰と木の上に一人ずつ待機している」
「えっ!」
「何っ!?」
「ほら、声が聞こえたでしょ?」
潜んでいる二人の存在に気付いたのは、アルデだった。彼は盗賊に遭遇した時から、潜んでいる二人の気配を魔法を使い感知していた。
勝利を確信し、気を緩めていた弓使いの女と魔法使いの男は、アルデの言葉にうっかり声を出して反応し、自らの声でその指摘が事実であることをバラしてしまった。
潜伏していた二人の存在に、シェディは一瞬驚いて、すぐにその表情を取り繕う。
「――コホン。知っていたとも。ああ、気付いていて、あえて四人と言ったのだ。貴様らの策に引っかかったふりをするためにな」
嘘である。シェディは潜む二人の存在に全く気づいていなかった。
「そう? じゃあ君の作戦を邪魔しちゃったかな。それは悪いことをした、次こういう事があればボクは黙っておくよ」
「えーっと……い、いや、それは……」
シェディは冷や汗をかいて、しどろもどろになった。
「素直に気付いてなかったって認めたらいいのに、見栄を張りたいお年頃
ニヤニヤとしながらメルトが肘でシェディの脇腹を小突く。ご丁寧に「かっこじゅうきゅうさい」までわざわざ声に出して。
「ちなみに、私も全然気付いてなくて今めっちゃ驚いてます」
「お前っ、人の事を言えないではないか!」
「いやいや、私はシェディくんと違って素直に気付かなかったことを認めていますよ」
シェディとメルトは睨み合った。
その光景を盗賊たちは、ぽかんとした表情で見つめていた。
「なんだこいつら、俺らそっちのけでやり取りしてやがる」
「くそっ、アタシらを舐めやがって……!」
弓使いの女が舌打ちをして、毒の矢をつがえ、メルトへ向けて放った。
「おっと、そうはさせないよ」
放たれた毒矢は、突如走った雷電に阻まれ、焼かれて落ちた。アルデの魔法である。
「君とそこの魔法使いくんは僕が相手をしよう。メルト、シェディ、他は頼んだよ」
「任せてくださいっ!」
「ふははははははっ、任せろ!」
アルデの言葉に力強く答える。盗賊たちはその言葉に顔をしかめた。
「上等だ。おいお前ら、こいつに地獄を見せてやれ」
「ああ!」
リーダーの号令に従い、盗賊たちはそれぞれの相手を睨みつけ、声を揃えて返事をした。
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