消えるノート

 今度はきちんと会社に入ることができ、朝礼などが終わり仕事を淡々とこなしていると、メモ帳代わりに使っていたA5の小さなノートが最後のページになってしまった。使っていたら終わりが来るのは当たり前なのだが、結構長く使っていた気がしたので少し寂しさを覚えた。

 昼休憩になり、ノートを買いに行くついでに外で食べようと思い会社を出ると康介が島田さんに捕まっているのを発見した。部署が違うので面識はあまり無いはずなので一緒にいることに少し驚いたが、今日は蕎麦の気分じゃないので見つからないように慎重に動こうと思った矢先、康介が振り返り

「涼じゃん! 昼飯一緒に行こうぜ!」

と言ってきた。そして島田さんも俺の方を見て手を振ってくる。まじかよ。そう思うのと同時に恥ずかしいから大きな声で名前を呼んだり思いっきり手を振るのは勘弁してくれと思った。なので、小走りで二人に近づき小言を言おうとしたが、その前に

「涼は昼飯何食いたい?」

と島田さんが聞いてきたのでびっくりしてそれどころではなかった。

「蕎麦じゃないんですか?」

と聞いてみると、

「いつも蕎麦だと俺はいいけど皆は嫌でしょ」

とすごくまともな大人っぽいことを言ってきたので更に驚いてしまう。そんな俺をお構いなしに、二人は昼何を食べるかと再び話しだした。俺は特に何かを食べたいとは思っていなかったので二人に任せることにした。話がまとまったのか

「ラーメンでいいか?」

と島田さんが聞いてきたので

「いいですね」

と返し、店に向かう。この三人で昼を食べることは初めてだったので疑問に思っていることを聞いてみた

「康介と島田さんていつから仲良かったんですか?」

と島田さんに聞くと

「新人歓迎会のときからだよな」

と康介に言っている。そうですねと康介がいいその時のことを話してくれた。簡単に言うと康介が酔っ払ったときに介抱してくれたのが島田さんだったそうだ。それから島田さんが部署は違うが心配で気にかけていたら仲良くなったらしい。面倒見のいい島田さんとおっちょこちょいな康介らしい仲の良くなり方だなと納得した。そうこう話しているうちにラーメンがきたので美味しく頂いた。食事が終わり会計に向かうのだが、今日も島田さんが奢ってくれる。財布に優しい上司だなとしみじみ思うのだが

「毎回奢ってくれますけど大丈夫なんですか?」

と聞いてみた。すると

「全然大丈夫だぞ。お前たちも知ってる通りうちの会社かなり給料いいからな」

と言って笑っている。たしかに給料はいい。絶対に平均よりは多くもらっているはずだ。だが、島田さんは昼食をほぼ毎日誰かと食べているので少し心配になる。しかし、島田さんは

「俺が仲良くなりたくてしてることだから、気にすんな」

と言ってくれる。ほんとにいい上司だなと思った。そんな話をしながら歩いていると会社が見えてきた。そして俺は新しいノートを買い忘れていたことに気がついた。昼休憩はまだ10分近く残っているので、二人に

「ちょっと百均行ってノート買ってくるんで先行っててもらっていいですか?」

と言った。すると康介が

「ノートっていつも使ってるちょっと小さいやつ? それなら俺使ってないのあるからやるよ」

と言ってきた。今日は奢ってもらったり譲ってもらったりして人から何か貰ってばかりで何だか申し訳ないなと思ったので二人に缶コーヒーを奢った。その後、康介からノートを貰い島田さんと一緒にオフィスに戻った。

 午後の業務も何も問題なく進んだ。そして、終業時刻になったので帰る準備を始めた。すると、島田さんが

「もう退勤しちゃった?」

と聞いてきた。

「すいません。しちゃいました」

と言うと

「いいよいいよ。俺の方こそ悪かったね」

と言って戻ろうとしたので

「どうしたんですか?」

と聞いてみた。

「ちょっと緊急で対応しないといけないことができたから残ってる人居たらいいかなと思ってな」

と言ってきた。量を見せてもらったが一人でやる量じゃない。あまりにも多すぎる。

「俺も手伝いますよ」

と伝えると

「いや、退勤したのに悪いよ」

と言ってくる。しかし、一人でやらせて帰るほうが嫌なので無理を言って手伝わせてもらった。その時、やることをノートにメモし作業に取り掛かる。ノートにメモした仕事が終わったので次の作業を聞きに行くと

「まださっき頼んだの終わってなくない?」

と言われた。メモしそびれたのかと思いノートを開くとそこには何も書いていなかった。おかしいなと思ったが今騒いでもどうにもできないので、ノートとミスコピーの紙にさっきまで言われていた仕事と追加の仕事を書き、自分の席に戻り作業を進めた。一つずつ作業をこなしていきノートを見るとメモしたことが一部消えていた。やっぱり勘違いじゃなかったなと思った。そんなこんなで仕事が終わったのは23時過ぎだった。

「まじで助かった。ありがとう」

と島田さんが言ってくる。

「困ったときはお互い様ですよ」

と笑顔で返すといい部下を持ったもんだと島田さんも笑っている。

 島田さんと別れたあと俺は喫茶店に向かった。疲れたがやっておきたいことがあった。喫茶店に着くとすでに中で陣さんが待っていた。

「お待たせしました。夜分遅くに呼び出してしまってすみません」

と言った。すると

「怪異のことならいつでも相談に乗るといったのは私だよ。だから気にしないでくれ」

と言ってくれた。ありがたいことである。メールである程度情報は伝えていたので、

「早速見せてもらってもいいかな?」

と言われた。なので鞄から問題のノートを取り出す。

「ふむ。普通のノートに見えるね」

とノートの表紙や中を確認したあと陣さんがそう言った。そして

「多分『消えるノート』だと思うんだけど一応検証させてね」

と言われた。何をするのかなと思っているとペンを取り出し数字や文字、記号などを書いている。

「名前そのままですね」

と言うと、

「そうだね。新種の生き物と同じで怪異も見つけた人に命名する権利があるからね。私はわかりやすくて助かるけどね」

と笑っている。たしかに複雑で分かり辛いよりはマシだろう。そう思っていると

「やっぱりね」

と陣さんがいい書いたページを俺にも見せてきた。そこに書いたはずのものは綺麗に消えていた。

「こっちで知り合いの神社に持っていくけどいいかな?」

と聞かれたので

「お願いします」

と言い、陣さんに任せ家に帰った。

 家に入り夕食や風呂を済ませた。朝のことと残業のせいで滅茶苦茶疲れた。怪異に襲われたが、はっきり言って『消えるノート』はあんまりインパクトがなかったなと思い眠りについた。


怪異レポート

 消えるノート:ノート型の怪異。書いたものを消す。他の怪異と比べるとインパクトがない。多少困るが実害はほぼほぼないので危険度は1。対処法使わない、ゴミに出す、神社で供養してもらう。

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