恐怖再び
金曜日。今日の仕事が終われば休日である。さらに来週の月曜日が祝日なので三連休だ。そう考えると気合が入る。会社に入った。確かに俺は会社に入ったはずだった。なのにそこはあの『時喰らい』を貰ったお店であり、そこにはあの時のお婆さんが居た。まだこちらには気づいていないようだ。急いで店を出ようと扉を開けようとするが開かない。どうしようかと考えていると
「感謝の一言もないのかい」
と後ろからお婆さんが言ってきた。振り返り
「感謝だと。あんたが変な時計を渡したのがそもそもの原因だろ」
と強い口調でそういうと
「恩知らずなやつだね」
とため息をついている。恩だとふざけるなと言おうとしたとき
「今度は何を探しているんだい?」
と聞いてきた。探しているものは無いし、もしあったとしてもこのお婆さんからは何も貰いたくなかった。なので
「特に探しているものはないです」
と言い、また扉を開けようと手を伸ばすと
「そうかい、じゃあここから出たいなら何か置いていって貰おうか」
と言ってきた。
「どういうことだ」
と言うと
「この前助けてやったろ」
と不気味に笑みを浮かべながらそう言ってきた。どうするか考え、仕方ない腕時計を置いていこうと思ったその時
「鞄を置いていきな」
と俺の手に握られている鞄を指差しそう言ってきた。就活の頃に買い今までずっと使っているものだ。愛着のあるこの鞄をよくわからないお婆さんに渡すのは嫌だった。なので
「断る」
と短くそれだけ返すと
「ならなにか持っていきな。それかずっとここに居たいのかい?」
とニヤニヤしながらそう聞いてくる。このままここに居ても埒が明かない。なのでしょうがなく鞄を置いていくことにした。そして中身を出そうとすると。
「鞄の中身も置いていくんだよ」
とお婆さんは言ってくる。この中には財布や社員証が入っているので置いていくわけにはいかなくなった。仕方がないので
「何か持ってけばいいんだよな?」
と聞くと
「そうだよ。やっとその気になったかい」
と言われた。誰もその気になってねぇよと思ったが口には出さなかった。どれにするかと店の中を見回す。なるべく害のないものを選びたいなと思う。一番最初に目についたのは手鏡だったのだが流石に鏡はヤバそうなのでやめておく。次は懐中時計だった。一見普通のものであるがここにあるということはなにかの怪異であることは間違いない。前回のことを思い出すとすごい勢いで鳥肌が立った。どうする。一生懸命考えてみるがいい方法が思い浮かばない。このままでは時間が過ぎていくだけだ。そう考え焦り始めたとき、視界の端にペンが見えた。なので、
「これでもいいのか?」
と聞くと、
「いいけど、それでいいのかい?」
と相変わらずニヤニヤしながらそう言ってくる。
「これでいいからさっさとここから出せ」
と言うと
「全く今の若者はせっかちだね」
と言ったあと
「もう開いてるよ」
と言われたので扉に手を掛ける。さっきとは違い扉が開く。すぐに出ようとする。後ろから
「またおいで」
と言われたので無視して外に出た。
あの店から出た。あの店に入る前、俺は会社に来ていたはずだ。なのに俺は今自宅の玄関に立っている。どういうことかわからない。あのお婆さんは時間まで操れるのかよとさらに怖くなった。ポケットからスマホを出し時刻を確認する。金曜日、7時30分。いつも家を出ている時間だ。軽くパニックになったのだが、会社に行かなければ。と思い家を出た。普段通り電車に乗りそこから歩いて少ししたところに会社がある。本日2度目の会社。本当なら一度来たら休みのはずだったのだがとかなり気分が沈む。だが、仕方ない。全てはあのお婆さんのせいだ。気合を入れ直し会社に入る。今度はちゃんと会社に入らせてくれと願いながら歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます