心の声

 朝起きてコーヒーを飲み出社の準備を終わらせる。今日も1日頑張ろうと気合を入れ家を出た。

 駅に着き電車に乗った。今日は出入り口のところで待機した。すると不思議なことにだるい、眠い、会社行きたくないなどの言葉が次々と耳元で囁かれる。隣を見てみるが誰もいないし、大きい声で誰かが独り言を言っているわけでもなさそうだ。遂に幻聴が聞こえ始めたのかと思い焦った。スマホで幻聴、原因と調べてみるとストレスや疲労が強くあるときも幻聴が出ることがあるとでてきたので、最近色んなことがあって疲れてるのかもなと思いあまり考えないようにした。しかし、調べている間も囁かれ続け少し不快を感じた。別にうるさいわけ。寝れないときにASMRで囁き音声など聴いているのでむしろ好きな方である。だが、ネガティブな言葉を囁かれ続けるとこっちまで気分が沈む。せっかく家を出るときに気合を入れたのにと思いイヤホンを取り出し音楽を聴くことにした。音楽を流しても効かないかなと思ったが全く聞こえなくなったのでよかった。

 降りる駅に着いたのでイヤホンを外すとまた聴こえ始めた。嫌だったがイヤホンをしながら歩くのは危ないので我慢するしかないなと思い会社に急いだ。会社に近づくに連れ近くに人が少なくなる。駅や電車ではひっきりなしに聞こえていたのに会社の近くは不思議なことに囁き声がほとんど無くなっていた。

 出勤し仕事をこなしていると上司から仕事を振られた。そのとき、涼ならできるから少し仕事振っても大丈夫だろうと囁き声が聞こえたので、どういうことかと思った。だが、直接聞くのは怖かったので

「どういうことですか?」

と上司を呼び止めのだが

「何も言ってないけどどうした?」

と言われた。聞き間違えだったのか

「なんでもないです。すみませんでした」

と言うと、不思議そうな顔をしてそうかと言い上司が自分のデスクに戻っていった。悪いことしたなと思い、それまでやっていた自分の仕事と上司から振られた仕事を爆速で終わらせた。仕事に集中していたおかげか囁き声は聞こえなかった。

 昼休憩になり、今日は昼どうしようかなと考えていると

「よう!」

といきなり背中を叩かれた。誰だよと思い振り返ると、新人研修のときに担当してくれた俺の直属の上司である島田さんだった。

「飯行こうぜ!」

とすごい笑顔でそう言われた。今日も相変わらず元気だなと思った、その瞬間また耳元で、愚痴聞いてもらおうと囁かれた。もしかするとと思い

「島田さん俺に愚痴聞いてもらおうとしてないですか?」

と聞いてみると

「なんでわかったん? まさかエスパーか!」

と島田さんはふざけている。やっぱりかと思い少し考えていると

「行くぞ!」

と島田さんに手を引っ張られ昼食を食べに会社を出た。島田さんと昼を食べに行くときは基本蕎麦である。そして、島田さんが奢ってくれるのである。優しくて気を使ってくれるいい上司である。食事をしたあと、島田さんの愚痴をひと通り聞いていたが、理不尽なことが多すぎて可哀想だなと思った。愚痴を聞いている間も囁き声が多くて鬱陶しく感じていた。

 島田さんとともに会社に戻り、陣さんに現状起きていることと、この現象に当てはまる怪異がいるかどうか教えてほしいとメールを送っておいた。

 仕事が終わり駅に向かう電車を待ちながら陣さんからメールが来ていないかなと思いスマホを見ると返信が来ていた。メールに画像が添付してある。メールは該当する怪異がいるので詳細を添付してある画像で確認してくれとのことだった。画像を開いてみるとノートに怪異の名前や特徴対処法をまとめたものだった。俺の作っている怪異レポートに似た感じではあるものの、綺麗な字で丁寧に書かれている。とても見やすいしわかりやすいなとひと目見て感じた。名前は『心の声』というらしい。早速対処法を見てみる。飽きるまで放置または耳栓、それか大きな音をたてること。と書いてある。放置はしているが朝から今まで続いているのでまだ飽きてはくれていないのだろう。であれば、明日になったら大丈夫という保証もない。耳栓はイヤホンで代用したが仕事中などはできないので少し心もとない。であればまだやったことのない大きな音をたてるというのを試してみようと考えた。どうしよう。大きな音とはどの程度の音を出せばいいのだろうか。そう考えているとまた囁き声が多くなった。まだあと電車が来るまで10分くらいある。そろそろ鬱陶しさが限界になってきた。仕方ない。とりあえず手を叩いて見ようと思った。軽く手を叩いてみたがやはり囁き声は消えない。周りに人がいるのだが仕方がないので思いっきり手を叩いて見ようと決心した。呼吸を整える。まだ囁き声が聞こえる。パンッと思い切り手を叩いた。すると不思議なことに囁き声がピタリと止んだ。よかったこれで解決できたと喜んだのも束の間、周りの人が俺のことを見ている。視線が痛い。しょうがなかったとはいえ周りの人に迷惑をかけたので申し訳無さと絶対に変人だと思われたという恥ずかしさで今すぐここから逃げだしたくなった。

 

怪異レポート

 心の声:実体はなく、周囲の人の考えていることを耳元で囁いてくる怪異。基本的に考えていることだけだが偶にありもしないことを囁いてくる。それがもとで喧嘩になることがある。集中力が削られたり人の考えていることで傷ついたりするので危険度は2。対処法は怪異が飽きるまで待つか耳栓をする。一番効果的なのは聞こえた瞬間大きな音をたてること。

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