物真似
お互いに自己紹介をすませ怪異レポートを作っていることや『時喰らい』に襲われた話などをした。そして、陣さんが怪異について調べているということを聞いた。そうしてしばらく話たあと、もう遅いということで陣さんが家に送ってくれることになった。ありがたく送ってもらうことにし助手席に乗ったところで陣さんが
「怪異について私の知っている話をしてあげようか?」
と聞いてきたので
「ぜひお願いします」
と答えると、一つの怪異について話してくれることになった。その怪異というのは『物真似』
という名前だった。
「彼は君と同じサラリーマンをしていたんだよ」
と話しを始める。 そして、その男性は陣さんと同じで怪異に憑れている人がわかり、幽霊も見える変わった体質の人だったそうです。男性は生きているものと霊を判別でき生きているもの以外は透けて見えていたらしく、小さい頃は透けているものが生きていないことを知らずよく話しかけたりしてしまった結果付き纏われたり怪奇現象を起こされたりし大変迷惑していたらしい。
「怪異や霊には何があっても反応しちゃいけねぇってよく言っていたよ」
とその男性から言われたことを思い出し陣さんは笑っている。
そんなある日、その男性は大きなプロジェクトのリーダーに任命されたらしい。初めて任された大きな仕事に男は気合を入れて取り組んでいました。そして、リーダーということもあり毎日残業をしていた。
「何度も私にも連絡がきてね。すごく頑張っていたよ」
と少し遠い目をしながらそう言っている。
そんな日々の中で男性には癒やしがありったそうです。それは帰宅時に路地の塀の上でくつろいでいる黒猫を見ることでした。男性は実家で黒猫を飼っていたことがあったので、その時のことを思い出し癒やされているのです。しかし、塀の上でくつろいでいるその黒猫は霊でした。毎日ほぼ同じところにいるので男は地縛霊なんだなと男性は考えていたそうです。
「私は霊は見えないし、彼とはなかなか会えなかったから怪異に憑れているのに気付けなかったんだよ」
と陣さんは悔しそうにそう言う。
反応してはいけないというのは基本的に人型のものに対してであり、そうでないものは見る分には無害であると男性は陣さんに話していたそうです。そうして、プロジェクトが終わったときに異変が起きた。プロジェクトのメンバーと打ち上げをし男性はその日珍しくお酒を飲みんだらしいく、かなり飲んで酔っ払った男性は千鳥足になりながら家に向かって歩いていると、いつものように塀の上でくつろいでいる黒猫を見つけた。この黒猫がいたから自分は頑張ってこれたんだとしみじみと感じ、何を思ったのか男はその黒猫に手を伸ばしてしまったらしいのです。
「多分だけどお酒のせいで判断力が鈍っていたんじゃないかな」
と陣さんは付け加える。その男性が撫でようと手を伸ばした瞬間、男の後ろから車のクラクションが聞こえ、そして男が反応する間もなく、壁と車に挟まれたそうです。
「その男性はどうなったんですか?」
つい、続きが気になりそう聞いてしまった。すると、
「生きていたよ。でも足を骨折してね。半年以上は入院していたよ」
と教えてくれた。俺はほっとして
「生きていたなら良かったですね」
と俺が言うと陣さんは微妙な顔をして、良かったのかねと呟いた。なので、
「どうしてですか?」
と聞いてみると
「実はその車の運転手が彼のお兄さんだったんだよね」
とバツの悪そうな顔をしてそう言った。唖然として何も言えなくなってしまった俺に
「でもわざとじゃないんだよ。それは彼もわかっていたから遺恨が残ることはなかったんだけどね。それでも、お兄さんの方はすごく落ち込んでしまったんだよ」
と言った。わざとじゃなくても人を引くだけでかなり落ち込むはずだ。ましてや実の弟を引いたんだ。俺が想像している以上にきっと落ち込んでしまったのだろう。そんなことを考えていると、
「私はこのとき何もできなかった。だから怪異探偵を始めたんだ」
と今の仕事をしている理由を話してくれた。
「だから、今朝涼君に話しかけてしまったんだよ」
と笑いながら言っている。
「そうだったんですね。ありがとうございます」
と言うと、勝手にしたことだから気にしないでくれと言われた。そして、
「怪異をレポートにまとめるのはいい、だがね今話した様に怪異には人の命を奪うとするものもいる。そのことを頭に入れておいてほしかったんだ」
と真面目な顔でそう言い、
「だから自分から怪異に接触しようとするのだけはやめてくれ」
と心配した声色で続けられた。まだ会って間もない俺のことをこんなに心配してくれているのでいい人なんだなと思い、
「わかりました」
と素直に答えると
「よかった」
と言い笑顔に戻った。そして、
「怪異について私はかなり色々調べた。だから、多分ネットよりも詳しいことを教えられると思う。いつでも連絡してくれて構わないから何かあったら頼ってくれ」
と言ってくれたので、俺はありがとうございますと返した。こうやって言ってくれる人がいるのはとても心強いなと俺は思った。
怪異レポート
物真似:対象の記憶から愛したものの姿を真似る怪異。真似るものはすでに亡くなっているもののみ。1度見たところからは動かない。対象が気を抜くのをひたすら待ち油断したところで殺そうとしてくる。方法は様々であるが交通事故が1番多い。残忍さと狡猾さの点から危険度は5。対処法はお祓いを受けること、なるべくそれを見たところには近寄らないこと。
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