暗闇に誘う者
あの『時喰らい』の一件から数日が経った。俺は特に異変もなく平和に過ごすことができていた。
そんなある日また夢を見てしまった。今回もあのお婆さんが目の前に立っている。前回との違いはお婆さんの表情だ。不気味なほど満面の笑みを浮かべている。こちらがなにか言っても全く反応しない。また、夢の覚める感覚がする。今回は何も言ってこないなと思っていたら
「逃げられないよ」
と言ってきた。どういうことだと言おうとしたが、目が覚めてしまった。
すごく汗をかいている。嫌な夢だった。そう思ったのと同時にまたあの時計があるんじゃないかと思い慌ててリビングに行く。しかし、そんなことはなく康介と一緒に買った時計が掛かっていたので安心した。
時間を確認する。深夜4時。深夜というよりは未明と言ったほうが正しいだろう。今から二度寝したら残念ながら出社する時間に起きられる自身がない。かと言って何かするかと言われればしたいこともやらないといけないことも思いつかない。
少しの間どうするか考えたあと、ふと思いついたことがあるので自室に戻りパソコンの電源をつける。思いついたことというのは怪異と幽霊の違いはどういうものか気になったのだ。なんとなく違うことはわかるがどこが違うかと言われれば説明できない。そこら辺の細かい違いは知らないのでどうせなら調べてみることにしたのだ。
まず、怪異について調べてみる。怪異とは道理で説明がつかないほど不思議で異様なことと出てきた。
次に幽霊について調べてみる。幽霊とは死者が成仏できず、この世に迷い出て現す姿らしい。なるほど。両者の違いについては理解できた。では怪異はどんなものがあるのだろうかと好奇心がわき調べようとしたその瞬間、視界が真っ暗になる。冷静に状況を判断すべく、そのままでいると視界が戻った。照明もパソコンもついている。つまり、停電でもなくブレイカーが落ちたわけでもないようだ。であれば、また怪異の仕業ではないかと思った。
視界が急に真っ暗になる。これは説明できない不思議な異状だろう。一体これはなんていう怪異なんだろうと気になった。怪異を調べるに当たり特徴があったほうが絞り込みやすいはずなので考えてみる。真っ暗になったとき誰かに触れられた感覚はなかった。
今は昔と比べ非常に便利でインターネットで調べれば大抵のことは出てくる。パソコンもついているので早速調べてみることにした。検索するために単語を打ち込もうとキーボードに手を伸ばすとまた目の前が真っ暗になる。しかし、それは俺には効かない。なぜなら俺はブラインドタッチができるからだ。伊達にサラリーマンをしていたわけではない。暗闇、怪異ととりあえず打ったあと検索をかけ、視界が戻るのを待つ。
少しすると視界が戻ったので早速検索結果を見てみる。候補としてはそれなりに出てきたのだが時間や場所などが違っている。今回俺の身に起こっている場合で考えてみると、家、4時台、触れた感覚がないというのが特徴になるだろう。検索結果には時間帯が未明と早朝があるのだが4時は未明のはずなのでその条件で探してみる。
すると、2個に絞ることができた。その怪異の名は『目隠し』と『暗闇に誘う者』だった。後者はなんだがすごくかっこいい響きだなと思った。この2つの怪異について書かれていることを読み進めているとまた暗くなる。
ちょっとめんどくさいなと思い、対処法のところを見てみるが、対処法怪異が『目隠し』は飽きるまで待つというあまりにも雑なもので、『暗闇に誘う者』は暗くなっている時間が短くなっていくので終わるのを待つというものだった。どちらも待つ以外の対処法はないらしい。その後も見てみるがこれと言って有益な情報は得られなかった。残念に思ったがこの2つの怪異についてを調べている間に暗くなった秒数や間隔などを測ってみた。はじめの数回はいきなりだったのと準備が間に合わなかったので分からなかったが、それ以降は22秒、20秒、18秒とどんどん短くなっている。ということはこの怪異は『暗闇に誘う者』であるのだろう。対処法がわかっていれば幾分心に余裕があった。暗くなっている時間を書いた紙を見て少し考えた。
怪異のことを纏めてレポートみたいにしてみたら面白いんじゃないかなとふと思いついた。さっき見た夢であのお婆さんは逃げられないと言ったのだ。
どうせ逃げられないなら真っ向から挑んで俺に襲いかかるすべての怪異を分析しレポートにしてやろうと考えた。分析やレポートにするのは好きだし得意な方だ。時間が時間だったからだろう変なテンションになっていてやってやるぞと一人で盛り上がっていた。
そうして俺は怪異の特徴や対処法を纏めたこのレポートのことを怪異レポートと名付けた。
怪異レポート
暗闇に誘う者:0から5時までの間に現れる形のない怪異。対象は一人でいる人。対象の視界を真っ暗にする。はじめは30秒くらいで回数を重ねるごとに暗くなっている時間短くなる。このとき何かで覆われたりするわけではないので少し不気味。手で覆われるよりはマシ。基本的には実害はないので危険度は1番下の1。対処法はひたすら耐えること。
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