時喰らい 後

 もう大丈夫だと思い浮かれた足どりで家に帰り鍵を開け、家に入ると違和感を覚えた。カチカチと時計の針が動く音が聞こえるのである。その瞬間ものすごい恐怖とともに鳥肌が立った。なぜなら俺は掛け時計以外は時計を置いていない。音がするということは時計があるということだ。そんな嫌なことを思ったがしっかり供養してもらったから大丈夫だと自分に言い聞かせリビングに行く。するとあの時計が壁に掛かっていて針が普段よりも早く動いている。それを見て怖くなり家を出て近くのコンビニに逃げ込み康介に連絡する。すぐに迎えに来てくれた。康介が一人暮らししている部屋に行き、供養してもらったはずの神社に電話をしてみる。おかしなことに、時計は神社にあると言われ、であればさっきのは何だったのかと問い詰めてしまった。神主さんにもわからないとのことだった。電話を切ったあと神主さんが怪異については詳しくないと言っていたのを思い出し、わかるはずはないのにあまりにも不安すぎて問い詰めてしまって申し訳ないことをしてしまったな思った。

 このあとどうするか康介と考え、もう一度家に戻ってみることにした。康介も来てくれるとのことだったので少しだけ心強かった。家に戻ると鍵が開いている。締め忘れたのだろうドアを開き中に入るまだ時計は動き続けているのだろう針の動く音が聞こえている。康介とともにリビングで時計があることと動いていることを確認し急いで家から出た。その後は、康介の家に行きその日は遅かったので泊まることになった。

 その夜夢を見た。時計をもらった店のお婆さんが出てきた。あの時計は何なのかなぜお祓いをしても家にあるのかなどを聞いても何も答えずただ真顔でそこに立っているだけだった。そうしているうちにこれが夢であることに気づいた。そして、同時に俺の名前を呼ぶ声がどこからか聞こえてくる。あと少しで目が覚める。そんな気がした。まだこのお婆さんから話を聞けていないの。目の前にいるのに何も情報を引き出せていないことに苛立つ。しかし、夢から覚める直前お婆さんは真顔で一言だけ何かを言った。

 目が覚める。康介が

「そろそろ準備しないと会社に遅れますよ」

と声をかけてくれた。ありがとうと感謝を伝え俺も準備を始める。夢の最後に言われたことを思い出そうとするが、なかなか思い出せない。何かを外せそう言われたのはかろうじて思い出せた。だが、その何かを思い出すことができない。モヤモヤしたまま会社に行き、仕事をこなす。いつもより時間がかかった気がした。仕事も終わり会社を出て少ししたところで信号を待ちながら家に帰るかどこかホテルなどに逃げ込もうか考えていると康介が後ろから声をかけてきた。

「涼このあと予定ある?」

「無いけどどうした?」

と聞き返すと

「じゃあこれから時計を供養してもらった神社に行かないか?」

と言われた。なぜ急にそんなことを言ってきたのか疑問に思い聞いてみると、康介も今日夢を見たらしくそこでお婆さんに針だとずっと言われ続けたらしい。意味が分からなかったが、最近の出来事で針が関係することで思い浮かんがのが俺の時計のことだったと言った。俺も夢でお婆さんに何かを外せと言われたことを伝えると時計の針を外すのではないかという結論にいたり2人で神社に向かった。神主さんに事情を説明し針を取り外させてもらった。その後、また2人でお祓いを受け家に帰った。帰り際昨日の電話のことを謝罪すると

「不安だったのでしょ。仕方ないことですよ」

と優しく言ってくれた。


 また康介についてきてもらい家に帰る。鍵を開け家に入ると昨日との違いにすぐに気づいた。すごく静かである。ひとまず安心した。しかし、まだどうなるかわからないので無理を言って康介に泊まってもらうことにした。翌朝起きると時計はなくやっと解決したように思えた。その日の夕方康介と一緒に掛け時計を買いに行った。また、変なのじゃないといいなと思いつつリビングに買った時計をかける。


 怪異は解決したのだが1つだけ疑問が残る。それはあのお婆さんのことだ。解決策を俺達に教える必要はないはずだ。あのお婆さんは本当に「怪異渡し」だったのだろうか?


怪異レポート

 時喰らい:時計の形をした怪異。対象の時間を奪う。場合によっては即死の危険性があるので上から2番目の危険度4。対処法は時計の針を外すこと。


 怪異渡し:怪異に引かれたものにその怪異を渡す怪異。直接的な攻撃性能はないが出会ってしまうと高確率で怪異に取り憑かれる。直接の攻撃性能はないが、渡される怪異によっては死に至る。さらに基本的に対処できないので危険度は1番上の5。個人的に1番出会いたくないタイプの怪異である。対処法は店に入らない、何も貰わない。

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