第2話 茜ちゃんとの再会
茜ちゃんが小夜さんのカウンセリングをしてから三ヶ月ほど経った。茜ちゃんは小夜さんと出て行ったきり戻って来ない。カウンセリングルームの待合室は変わらず賑わっているが、あれから、誰のカウンセリングも行っていない。
水亀先生からは、ひたすら本を紹介されている。たまに、神社のアルバイトから帰って来ると本の感想を聞き、さらに、本の紹介をしてまた読み終わる頃に感想を聞くということを繰り返している。この三ヶ月ほどで、洋書、古書を含め五十冊以上は読んだだろうか?レポートを書いている訳ではないが、これだけの本を読むのはなかなか大変だ。学生生活でもこんなに本を読んだことはない。
さらに、読まされている本が、心理学とかカウンセリング関連は始めの内だけで、今は『古事記』『日本書紀』に始まり、神に関わる話し、民族の伝承や歴史、哲学、魂に関するものばかり読んでいる。これでバイト代をもらっているのだから、文句は言えないが、カウンセラーというより、占い師とか呪い師になりそうだ。都市伝説系のyoutuberなんかもいけるかもしれない。
そんなことを思いながらも、今日の本を読んでいると、ガチャっと扉が開く音がした。そちらの方に目を向けようと本から視線を外すと、目の前に茜ちゃんがいた。
「兼人、ずっと本読んでるの?お尻にキノコが生えるよ」
三ヶ月ぶりの同僚に言うことか?と思ったが、この見た目とは相反する憎たらしさが茜ちゃんの魅力なのかもしれない。
「茜ちゃんは、仕事もしないで三ヶ月もどこに行っていたの?」
「兼人くん、シスコンで童貞で本の虫ではいけませんよ。お尻にキノコが生える前に今日は外に行きましょう」
先生の話し方を真似しながら、僕の質問には一切応えずに、聞き捨てならないことを言っている。でも、懐かしさと嬉しさが込み上がって来る。
「でも、先生から言われている本を読まないと・・・」
「その先生が呼んでるんだよ。行くよ」
茜ちゃんに引っ張られて、久しぶりの昼間の日差しの下に出た。この三ヶ月は朝から陽が落ちるまでずっと部屋にいたから、確かに、あまり陽の光りを浴びず、キノコならず苔のような生活だった。
「どこに行くの?」
「神社だよ」
「先生がアルバイトしてる神社?」
「アルバイトはしてるか分からないけど、先生からそこに来てって言われた」
建物を出ると、横浜の街・・・のはずなのだが、茜ちゃんが猫だからなのか、細い路地裏を早足に歩く茜ちゃんに必死に着いて行くと、眩い光りの中に見慣れない神社が現れた。横浜にこんな神社あっただろうか?
「あの神社だよ」
茜ちゃんが指を指し、鳥居を走ってくぐって行った。
僕も追いかけて、鳥居をくぐろうとした際に、一人の男とすれ違った。その男は鳥居から出るとクルッと振り返り、一礼して神社を離れて行った。独特な雰囲気のオーラがあり、どこかで見た顔だったような気がした。
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