31. 望む答えは痛みの先に
「さあ、行くぞ!」
「……!」
片瀬が息を飲む一方で、『刀使い』は右手からの切り落としを放ち、『槍使い』がそれを柄で受ける。
続けて『刀使い』は前方へジャンプし、落下の際、唐竹割りのモーションを出したものの、同時に飛んでいた『槍使い』の空中投げに捕まってしまう。
小絵と征士が息を飲んだが、『刀使い』は『槍使い』の手を打ち払い、投げ抜けをして、相殺の紫電エフェクトが空に走った。
空中から地上へ落下する数瞬、俺と片瀬の視線が一度だけ、ぶつかり合う。
片瀬は下唇を噛み締めながら、しかめっ面を浮かべ、こちらを真っ直ぐに見据えていた。
俺も眉根を強く寄せている自覚はあったので、「お互いさまだ」と小さく呟く。
その交錯から、彼女が何を『見た』のかは分からない。
ただ俺の胸には、『ジャック・ボックス』や『パンドラの家』の終盤で抱いていた痛切な感覚が蘇っており、もう全ての終局が目の前に迫っていることを予感してしまう。
その痛みが、このまま最後まで走り抜けろ、望んでいる答えはこの先にあると叫んでいる。
そして、『刀使い』と『槍使い』のつま先が、同時に地面へ落ちる。
次の瞬間、『槍使い』はレバーを前へ倒したリーチの長い強攻撃を繰り出した。
カウンターで当て、最高火力のコンボを叩き込めば、ノックアウト可能な唯一の方法。
しかし、だからこそ。
「……予想通りだ」
『槍使い』にその選択肢しかないのなら、『見えていて』も『いなくても』関係ない。
槍が届く寸前、想定していたコマンドを入力すると、画面が暗転し、『刀使い』の横顔のカットインが入った。
その姿勢がわずかに下がり、鞘を腰へ据え、手の平が柄へ走る。
溜めに溜めた必殺技ゲージを全て解放し、『槍使い』の攻撃がヒットする瞬間、無敵フレームが発生する、『居合抜き』のモーションに入った。
それこそが、1フレーム0.016秒の壁を超える、俺だけの『予知』。
一瞬でも入力のタイミングを誤れば、即死するのはこちらだが、彼女に勝つための手段もまた、一つしか残されていなかったのだ。
『刀使い』は槍の真横を駆け、ゲージを消費しながら疾走する。
やがて『槍使い』の眼前で、刀は鞘走り、刃が閃く。
きぃん! という効果音が響き、『刀使い』は『槍使い』の後ろへ駆け抜けた。
抜いた刃の線を追い、暗転した世界に、弧の軌跡を描く光が鋭く走る。
そして。
「……っ!」
片瀬の悔し気な吐息が、耳へ届いた。
スマートフォンの画面では、『居合抜き』を喰らい、ライフがゼロになった『槍使い』が倒れ伏している。
「You win!」のメッセージが表示され、『刀使い』が納刀し、冷静に一つ息を吐いた。
それを見終わると、身体に力が入らなくなってしまう。
全てを出し切った俺はテーブルへ突っ伏し、同じ状態になっている片瀬を見ながら、深い呼吸を繰り返して、途切れ途切れの言葉をこぼす。
「勝っ……たぁ……。し、死ぬかと思った……。けど」
やがて俺は胸に手を当て、そこに滲む達成感と、やっと繋がった点と線の実感を抱く。
「そっか……。そういう、ことかぁ……」
そして、その事実が生む激しい鼓動の高鳴りを感じ、木組みの天井を仰ぎながら呟いた。
「これが最後の勝負と思ってたけど、あと一戦、残ってるんだな……」
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