6.  それで、昨日の答えなんだけど

 そして迎えた翌日の朝の教室にて。

 まだ担任の教師が来る時間ではないのをいいことに、こっそりアプリを開き、アップデート情報の確認をしようとしていた俺へ、不意に声がかけられた。


「市倉」

「うおッ!?」


 席に座っていた俺は文字通り飛び上がり、声の主へ視線を向ける。

 そこには片瀬の姿があり、クラスメイト達は不意のイレギュラーに騒めき立った。


「か、片瀬!?」

「おはよ」


 彼女が淡々と頷く一方で、返答は放課後だろうと高を括っていた俺は驚きを隠せない。

 また、ガチャのこともあって気付いていなかったが、彼女の佇まいには不思議な存在感があり、教室内でもかなり目立つ。

 そんな片瀬が普段、一人でゲームばかりしている男子に声をかければ、クラスメイト達が色めき立つのも無理はない。

 俺は気合を入れるため、ぱんと一度頬を叩き、顔を上げた。


「ああ、おはよう。昨日はありがとな、急に呼び出したのに」

「ううん、いいよ。気になることもあったし」

「……? そうなのか?」


 普段、ゲームをするタイプには見えないが、興味を引くものはあったらしい。

 片瀬は自身の指先を軽く絡めた後、変わらないフラットな口調で言った。


「それで、昨日の答えなんだけど」


 その言葉で、教室の空気が変わる。

 会話は途切れていないが、皆の気がそぞろになっているのが、俺にも分かってしまった。

 一方の片瀬は、やはり淡々として変わらない。


「せっかくだし、付き合うよ。市倉となら楽しくやれそうだから」


 瞬時に教室の雰囲気が凍り付き、やがてこっぱみじんに砕けて、大騒ぎになる。

 女子は、「この間、軽音部の新部長をフッたのに……!?」、「ううん、その前だって、サッカー部の先輩を歯牙にもかけなかったって……!」などと言い、男子の顔はもはや蒼白だ。

 当の彼女は不思議そうな、状況がよく分かっていない表情で、目を瞬かせている。


「……えっと、何かあった?」

「う、うーん……」


 俺は割と……いや、かなり強めの頭痛を覚えてしまう。

 返答に困っている俺へ、片瀬は続けた。


「あと、市倉っていうのも堅苦しいから、史也って呼ぶよ。私のことも水帆でいいから」


 がちゃん! と派手な音を立てて、とある男子が椅子からひっくり返る。

 それを見た女子が、「あっ! 一か月前、一言で撃沈した矢野君が!?」という悲鳴を上げた。

 俺は再び頭を抱え、片瀬はきょとんとしており、思わず重めのため息が漏れてしまう。


「し、しばらく、胃に優しいもの食べないとダメかも……」


 その一方で誤解と頭痛の種を振りまいた自覚のない片瀬は、頭に疑問符を浮かべたまま、首を傾げている。

 こうして俺の、排出率0.5パーセントのガチャを100パーセント引く彼女に勝つ方法を探す戦いが始まったのだった。

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