第4話
昼食をとり、一時間の休憩をした俺は今度は中庭に向かっていた。午後からは、ゼウスの剣術の鍛錬を受けると約束をしていたからだ。
彼は彼自身の言葉で、とても厳しく指導すると言っていた。そこまで断言するという事はとてつもなく厳しいものになるのだろう。俺は歩きながら両頬を叩くと気合を入れ直す。
中庭に着くと、そこに彼はもうすでにいた。
綺麗に刈られた芝生が生えた広々とした中庭。中庭の隅には小さな池があり、中には鯉らしきものが泳いでいる。原作ではその魚について何も触れられていないため、あくまでらしきものだ。
「お待ちしておりました。では、さっそく始めましょうか」
「ああ。よろしく頼む」
ゼウスは俺に言った。これから始まる厳しい鍛錬に緊張しながらも、どこかワクワクしている自分がいる事に、俺は気づいた。
◇◆◇◆
「ウィリアム様。ペースが落ちていますよ。あと100回追加です」
「ぜ、ぜぇ。はぁはぁ。うっ」
あれから3時間後。俺はひたすらに筋トレをしていた。
ゼウスは剣術には基礎体力作りが肝心だ、と言い、最初に腕立て伏せ300回を言い渡した。いきなりの高難易度筋トレに俺が思わず、えっ?と声を漏らすと彼は微笑みながらこう言った。
「ふむ。ウィリアム様にはこの程度の筋トレが厳しいですか。なら、仕方ありませんね。回数を減らしましょうか。もっとも、ヘルト学園(俺が入試を受ける学園の名前)の受験者は皆さんが、これの10倍の回数は涼し気に達成なさりますが」
「わ、わかったわかった。やるよ」
こんな風に挑発されてしまった。さすがに自分から鍛錬してください、なんて言っておいて腕立て伏せの回数減らしてください、なんて死んでもやりたくない。ダサすぎる。
とは言ったものの、いざ腕立てを始めると、たったの70回で限界を迎えてしまった。腕がプルプル震えてもう体が持ち上がらない。
すると、ゼウスは俺にほんのすこーしだけ回復魔法をかけ、
「さっ、続きをどうぞ」
と言った。そして追加で
「あ、そうそう。言い忘れていましたが、ウィリアム様が限界を迎えた時、私がほんの少しだけ回復魔法をおかけします。そのあと続きをやってもらうのですが、ただ回復魔法をかけてしまうとウィリアム様のためにはなりません。そこで、一回回復魔法をかけるごとに、腕立て伏せ100回の追加をさせていただきます。ゆっくりでもいいですので、確実に数をこなしてくださいね」
その言葉を聞いた時のショックの大きさと言ったらそれはもうとんでもなかった。なにしろ、自分の顔が真っ青になっていく感覚が分かるのだから。それから地獄の腕立て伏せタイムが始まり、一時間以上かけてようやく300回を終わらせた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「では、次に行きましょう」
「つ、次!?ちょ、ちょっと休ませて…!」
「?休憩なら今しているでございましょう?では、次は腹筋運動を500回です。先ほどとルールは同じです。では、始めてください」
「ひぃっひぃっひぃっ」
よく分からない奇声を上げながらも俺は頑張って腹筋をやった。だが、案の定というべきか、今度は50回程度で腹筋がプルプルして上体が持ち上がらなくなった。すると、腕立て伏せの時と同じように、ゼウスが俺に回復魔法をすこーしだけ掛けてプラス100回を言い渡した。
それから2時間。本当にくたくただ。今日はこれで終わりだろうか。さすがに体がもたない。最初は500回だったはずなのに、トータルしたら1000回ぐらいはやったと思う。
「はぁっはぁっはぁっ」
「では、次に行きましょう」
「次!?」
「はい。次は走り込みです。今から家の周りの道を100周してもらいます。大体50kmぐらいですかね」
繰り返すが、俺は自分の顔が真っ青になっていくのを感じた。
◇◆◇◆
あれから1か月がたった。
鍛錬は順調に進んでおり、今では魔力放出を最大5時間連続で出来るようになり、腕立て伏せは5000回、腹筋は10000回、走り込みは連続で100km走ることが出来るようになった。
この世界の他の人のデータを見たことが無いためなんとも言えないが、俺個人の感想としては、かなりできる方ではないだろうか。まあ、師匠二人から言わせればひよっこもひよっこらしいが。
魔力放出は毎日毎日気絶するまでやったとして、筋トレは数を増やすスピードが異常だった。例えば、初日は腕立て300回(正確に言えば500回近くやった)だったのが、次の日からはいきなり500回に増やされたり、腹筋も500回(正確に言えば1000回くらい)だったのが、翌日には700回に増やされたりした。そのため、毎日毎日筋肉痛でそれはもう苦しい日々だった。
しかし、俺はそれを乗り越えた。無様な未来が分かっているのに努力しないなんてことはあり得ない。俺は鋼のメンタルでどうにかした。
そして、1か月後の今日。ついに俺は本格的な魔法の訓練を始めたのだ。
「よし、ウィリアム。今日から魔法の訓練を始める」
「おおっ!やっとですか…。長かった」
「最初に言っておくが、基本的には魔法を教えるという事はしない。というかできないと言った方が正しいか」
「どういうことですか?」
「いいか。まず、魔法というものは7つのタイプがある。四大属性の「火」「水」「雷」「風」に加え、稀少属性である「光」「闇」、そして「無属性」の7つだ。また、魔法というものは基本的に術者の想像力に依存するため、いくら私が口でお前に説明した所で、いくらかは魔法を扱うことが出来るようになるかもしれないが、それ以上は前に進めない。つまりはお前の知識、想像力が上がらなければ意味がないのだ」
ほへー。それは知らなかった。魔法に7つのタイプがあることは原作でも明かされており、知っていたが、魔法は想像力が大切だという事は知らなかった。
「ちなみに、私が使える属性は「火」と「雷」だ。基本的には適性を持つことが出来るのは、基本的には一人一属性だ。だが、稀に2属性以上扱える者がいる。それが私だ。そしてこれから、お前がなんの属性に適性があるのかを見ていく。なに、そう構えなくていいさ」
アリス師匠はそう言った。
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