第3話
ゼウスに鍛錬を頼んだ翌日。朝7時に起こされた俺は、ささっと朝食を食べると、ギルバード邸の正面にある入り口の門へと向かった。
大きくて立派な門に行くと、そこには一人の女性がいた。耳が長く、透き通るような白い肌をした綺麗なお姉さん。出る所は出て、締まる所は締まっている、まさに男が彼女に求める理想な体形をそのまま具現化したかのような体形。胸元が大きくはだけるような服を着ており、すこしというかかなり目のやり場に困る。
俺はこの人を見た瞬間とても驚いた。この人の名前はアリス・シネマ。原作では終盤の方に、主人公に魔法の指導をしてくれるキャラだ。
アリスは容姿端麗でとても強いキャラなため、人気は高い方であり、かくいう俺も好きなキャラランキングのトップテンくらいには入っていた。ただ、この人には一つ問題がある。それが……
「おい、ゼウス。魔法を習いたいというのはお前の隣にいるガキか?」
「はい。ギルバード家長男のウィリアム・ギルバード様です。くれぐれも丁寧に指導のほどよろしくお願いします」
「ふん。こんなもやしに魔法が使えるのか?」
と、まあこんな感じでとにかく口が悪いのだ。そのため、人気はあくまで高い方。トップには入る事は出来ずにいた。まあ、一部の特殊性癖持ちの奴らからは『アリスちゃんに罵られたい』だの『アリスちゃんに氷漬けにされて蹴られたい』だの、意味の分からない事を言われていた。
とりあえず、初対面の人にははじめましての挨拶だ。汚名を晴らすためにも、そこら辺の礼儀はしっかりしないとな。
「はじめまして。ウィリアム・ギルバードです。本日から3か月間の間、魔法のご指導のほど、よろしくお願いします」
「ふむ。礼儀に関しては合格だな」
良かった。一つ進歩か?
「では、ウィリアム様。私はこれで。後ほどまたお会いしましょう」
「ああ。また後で」
そう言うと、ゼウスは家の中に入って行った。
さて、これからは魔法の練習だ。主人公は強い。しかし、俺はそれを超えて見せる!と、その前に。
「アリス師匠。魔法の鍛錬を受けている間、俺はあくまであなたの弟子。生徒です。入試までの猶予はあまりありません。ゼウスは丁寧にと言っていましたが、俺のことを貴族だと思わず、徹底的に指導してください」
「ふっ。とんだ度胸だな。安心しろもやし小僧。元よりそのつもりだ」
◇◆◇◆
魔法の鍛錬の前に彼女は最初、俺に魔力を感じさせるところから始めた。
魔力とは、生まれた時から誰でも持っているものであり、魔法の源となっている。血液と一緒に全身を巡っており、必要な時に魔力を感じ、必要な場所に集める事によって魔法を使うことが出来るようになる。また、魔法だけでなく、単純な身体強化を行う事も出来る。例えば、足に魔力を集めれば脚力が強くなり、目に集めれば視力がよくなるなどなど。
原作では自身の魔力量や魔力の振り分けをステータスという形で一目で分かるようになっていたが、どうやら現実はそう甘くないらしい。ステータスを見ることなどできない。
魔力を感じること自体はとても簡単で、ものの1分ほどで感じることが出来た。
アリス師匠が次に俺に言い渡したことは、とにかく魔力を放出しろ、だった。
筋肉は使えば筋肉が傷付き炎症が起きる。それがいわゆる筋肉痛というやつだ。そして、その筋肉痛を直すと同時に筋肉の繊維が、太く頑丈なものになる。そうして筋肉は大きく硬くなっていく。
魔力もそれと同じで、魔力を体外に放出する事により、魔力の回復と同時に魔力量が増えるそうだ。彼女が言うにはこれが魔力量を増やす最短ルートらしい。何ならこれしか方法がないそうだ。ただ、この方法の難点としては気絶するまで魔力を放出しなければいけない事。なぜかは分からないがそうしないと魔力が増えないらしい。
また、魔法戦において魔力量の多い奴が勝つとアリス師匠は言っていた。まあ、これは実際公式ゲームブックにも同じことが記載されており、間違いない。
魔力量が大きければ、同じ魔法、一番想像しやすいもので言えば『ファイアボール』であれば、魔法に込めた魔力量によって大きさも威力も全く異なる。込める魔力が大きければ大きいほど『ファイアボール』大きく、威力が高いものとなる。
そのことを踏まえた上で、アリス師匠は俺に魔力を放出する、という事をやらせている。『ウィリアム』というキャラに魔法の才能があるおかげか、すんなりと魔力放出を行う事が出来ている。
だが、そろそろ限界が近づいている。
あ、やばい。意識飛びそう。あ。
俺は座禅を組んでいた態勢のままふらっと前に突っ伏してそのまま倒れこんだ。
「ふむ。1時間半か。初めてにしてはいい線言っているじゃないか。上出来だ」
意識がなくなる直前、アリス師匠がそう言っていたが、お礼を言い返す暇ものなく、俺は気絶した。
◇◆◇◆
「One for All」の原作でも、敵との戦闘中に魔力が無くなったら気絶した。だが、時間経過によって魔力が1でも回復したら目覚めるようになっていた。
現実だとそんな甘いものではなく、魔力の完全回復まで眠ったままの様だ。
俺はあれから3時間、眠り続けた。おかげで今はすっきりしている。感覚的には魔力量も増えている、気がする。あくまで感覚的に、だが。
その後、俺は昼食を取った。
昨日とは違って、壁際に並ぶ料理人たちは皆ニコニコしていた。
昨日の昼食の時にみんなが泣いて喜ぶもんだから、その日の夕食は各料理に一言ずつ感想を言ってあげた。するとどうだ。またしても泣いて喜ぶもんだから、なんだか俺も困惑を超えて嬉しくなってくる。それで、今日も料理長含めて9人がずらっと並び、俺の感想を心待ちにしているのだ。
「ふむ。このハムは味付けが濃くてご飯に合うな。いくらでも米が食べられる」
「そちらは、ハムハームというものでしてこちらのトム・ジョージが味付けをいたしました」
「ぐすっ。お、お褒めいただき、ぐすっ。光栄ですぅうぅぅ」
・・・・・・俺も嬉しくなると言ったが、ここまで来ると最早めんどくさいな。
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