一般通過JK、天御心流セミナーを開催する②

「はい! それじゃあここからは実際に体験してもらいつつ進めていくね。

 たぶんだけど、私の使ってる技が気になって来てくれた人が多いんじゃないかな?」

 

「そーです!」


 舞夜と同年代くらいの空手道着の少女がキラキラした瞳で肯定の声を上げる。


 その隣に立っている、ジャージ姿の男性も無言で何度も頷く。


「"衝芯"に限らず天御心流の技は誰でも使えるというのを体感として知ってもらいたいな」


 ・前も言ってたけど誰でもはいまだに信じられん

 ・つまりエリゴブをワンパンで倒せる可能性は俺にもあるってこと?


「練習方法について教えるねっ。とりあえず難しいことは考えずに私の動きをそのまま真似してみて?

 あ、リスナーさんたちも一緒にやってみてくれると嬉しいな」


 そう言って舞夜は右腕をまっすぐ持ち上げた。


 参加者たちも戸惑いながら、舞夜の真似をして腕を持ち上げる。


「そしたらそこから腕を落とす」


 舞夜は振り上げた腕をだらりと、重力に任せて振り下ろした。


「ポイントは脱力! 脱力できているとそうでないときの違いを見せたいんだけど、誰か受けてくれる人いるかな?」


 ・シーンとしてて草

 ・だって怖いじゃんw

 ・あーあ俺なら迷わず受けたのにな!あー残念だわ!

 ・その場にいたら下向いて視線そらしてそうw


「誰もいないなら私が。こう見えて探索者なんでね」


 名乗りを上げたのは、舞夜より少し年上くらいのピンク髪にパンクファッションの女性だった。


 彼女はクールな態度で話すが、その目は舞夜の動きを鋭く観察している。


 ・お、勇気あるな

 ・ナイス!頑張れ!

「助かりますっ! ミットあるので使ってください」


 ミットをパンク女性に手渡そうとしたとき。


「いやいいよ、生身で受けてみたい」


「おっけーです! ではまず腕を伸ばしてください。この前腕の部分に当てますね」


 片腕をまっすぐ伸ばしてもらい、前腕のヒットさせる箇所をとんとんと指でつつく。


「痛くはないと思うから安心してください。まずは、力で手を振り下ろした場合どうなるか」


 舞夜は右手をパンク女性に向かって力任せに振り下ろす。


 ぱちんと音を立てるが、パンク女性は微動だにしない。


「はい、こんな感じで痛くないですよね?」


「ええ、まったく」


 パンク女性は淡々と答える。


 ・あれ?ほんとに痛くなさそう

 ・ダンジョン外だとステータス補正消えるしこんなもんだろ

 ・舞夜ちゃん小柄だしね


「次は力を入れず、重力で腕を落としてみます」


 重力によって肘から順番に手が落下し、彼女の前腕に直撃する。


 先程よりも重い音を立てた。


 パンク女性は痛みに顔を歪める。


「ぐっ……!」


「あ、大丈夫ですか!?」


 ・普通に痛そう

 ・だめです

 ・うめき声漏れててるしマジで痛いやつやん


「だ、大丈夫です」


「よかったです! そしたら、次はこれに体重を乗せますね?」


「あ、待って。ミット貸してください……」


 ・やっぱだめだったんじゃんw

 ・パンクお姉さんついに陥落

 ・結局痛いんじゃんw


「はいどうぞっ! こうやって構えてください。じゃあいきますね」


 再びの振り下ろし。


 今度はインパクトの瞬間にがくっと腰を垂直に落とした。


 重たい打撃音。


 あまりの衝撃にパンク女性は体勢を崩して、ミットを取り落としてしまう。


「うわっやばすぎでしょ……」


 パンク女性の声は明らかに動揺の色が滲んでいた。


 彼女の舞夜を見つめる瞳には先程までの挑発的な光はすでに消えている。


 ・ミット越しでこれからよw

 ・直で当てたら怪我しそう

 ・お姉さんめっちゃ驚いてて草


 舞夜はくすりと微笑んで、ミットを拾いパンク女性に歩み寄る。


「受けていただきありがとうございますっ! 天御心流の技は見た目ではわかりづらいですからね。すごい助かりました!」


 パンク女性は目を伏せ、小さく息をついた。


「こちらこそありがとう、貴重な経験ができたよ」


 ・お姉さんありがとー!

 ・うーむ段々と威力上がっていくのがすごいな

 ・さすまよ


「はい、そしたら打つ人と受ける人でペアになってもらおうかな。ミットも人数分あるから怪我しないように使ってね。私が歩いて見て回るからまずはやってみましょう!」


 参加者たちは待ち切れないとでも言うふうに、早速動き出した。


 舞夜の実演は参加者たちの心を揺さぶっていたのだ。


 彼らの姿を舞夜は嬉しそうに見守っていた。

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