一般通過JK、スラミー王国へ挑む with 美桜⑦

 ゲーミングキングスラミーAは全身を膨らませて、再び強烈な輝きを放ち始めた。

 

 あの光弾の雨を、降らせようと準備しているのだ。


 攻撃をそしすべく、舞夜は足に気を集中させる。


 爆発的な脚力で一気に間合いを詰めた。


 気を込めた打撃を1発2発と次々に連打。


 だが、道中のスラミーとは違い、気を通した打撃にさえも耐性があるようで効いている様子はない。


「きゃあっ!?」


「ッ美桜ちゃん!」


 突如響いた悲鳴。


 舞夜は反射的に振り向く。


 さきほどまで動きを見せなかったゲーミングキングスラミーBが、全身から生やした触手で美桜を絡め取っていた。


 片方を瞬殺して、順番に撃破する。


 そのつもりが、予想外の耐久力によって作戦が狂ってしまったのだ。


 舞夜は歯噛みし、自らの力量を責めた。


 ・やばいやばい

 ・触手!?!?!?

 ・言ってる場合かよw


 そうしている間にも、ゲーミングキングスラミーAは着々と光弾を貯めていく。


 その標的が舞夜ではなく、身動きの取れない美桜だと気づいたときにはすでに光弾が発射されていた。


「美桜ちゃんッ! 危ない、魔力の壁を! すぐ助けるッ!」


 咄嗟に状況を説明する舞夜。


 一刻も早く美桜のもとに向かいたい気持ちをどうにか抑えて、光弾を止めるため連撃を重ねるが効果はイマイチ。


「くッ……どうして……!?」


 ・ぼよんぼよんしててダメージ与えられてるかわかんないな

 ・舞夜ちゃんの攻撃がここまで効かないとかやばすぎ


 舞夜の攻撃に迷いが生じる。


 やはり、救出を優先すべきだっただろうかと攻撃を止めようとしたとき。


 突如、舞夜の打撃にゲーミングキングスラミーAが怯む。


 その一撃で光弾の雨もぱたりと止んだ。


 ・お!効いた!

 ・今のうちに美桜ちゃんを!

 ・ナイス!


 形勢を立て直すため、美桜のもとへ一直線に駆ける。


 ちょうど、美桜が触手から振り下ろされ落下するところだった。


「大丈夫!? 怪我はしてない?」


 舞夜がお姫様抱っこでキャッチして心配そうに問いかける。


「だ、大丈夫です……」


 美桜が頬を染め、はにかみながら舞夜を見上げる。


「よかった……外傷はなさそうだね」


「あの、わかったかもしれません。ボスの弱点が」


「ほんと!?」


 偶然にも、触手で絡められているときに美桜はボスのある特徴に気がついたのだった。


 身を守るため、純魔力で障壁を展開しつつ、少しでもダメージを与えようと触手を通して魔力を流し込んでいたのだ。


 魔力を流し込むタイミングと、舞夜の攻撃が重なったとき、ゲーミングキングスラミーAが怯むのを美桜は見逃さなかった。


 その情報を美桜が自信なさげに控えめな口調で伝えると、舞夜は一切の疑いを挟まずすぐに頷く。


「いいね。それで行こう!」


「で、でも根拠は薄いです……。偶然かもしれません」


「そしたらまた考え直せばいいじゃん。二人でさ」


 ・同時攻撃が弱点なのか?

 ・全然気が付かなかったわ

 ・あの状況でよく見てるすごい

 ・触手に襲われる美桜ちゃん見るのに集中しすぎたわ

 ・最低だなw


「それじゃあ、私が触手の方を」


「はい……。私が遠距離のゲーミングキングスラミーを」


 舞夜は拳作って美桜に向ける。


「ほらっ美桜ちゃんも」


 照れくさそうに美桜も拳を合わせる。


「私たちなら絶対勝てる。背中は任せた!」


「……はいっ!」


 気合十分の二人は、交差するように走り出す。


 先ほどとは逆。


 ゲーミングキングスラミーBを舞夜が。


 ゲーミングキングスラミーAを美桜が。


 容赦のない光弾の雨が降り注ぐ中、美桜は自らに純魔力の全身にまとい力強く駆ける。


 完全に遮断することはできず、直撃は免れない。


 傷つきながらも、美桜の意思は揺るがない。


 一方の舞夜は、無数の触手を振るうゲーミングキングスラミーBに真っ向から挑む。


 美桜の魔力を流し込まれたことで、触手の数は分裂時よりも増えている。


 だが、数の暴力に怯むことなく舞夜は着実に一歩一歩進んでいく。


 気配察知をフルに発揮して、かわし、さばき、受け流す。


 その姿はまさに達人。


 ・ふたりともすげーw

 ・美桜ちゃんの勇気もすごいし舞夜ちゃんの技量はもう意味わからんw

 ・うおおおおおお


 ついに、射程圏内へたどり着く。


 美桜もまた、光弾の雨をくぐり抜けゲーミングキングスラミーAに触れた。


「美桜ちゃんっ!」「舞夜様っ!」


 呼び合う声に言葉は不要。


 互いに名前を呼ぶだけで通じ合っていた。


 舞夜は気を練り上げ、紅蓮の如きオーラを腕に纏わせる。


 美桜は純魔力を操り、膨大な量の魔力を一気に注ぎ込む。


 刹那、二人はゲーミングキングスラミーたちを同時に破壊した。


「やった!!」


「やりましたね……!」


 ・うおおおおおおおおおおお

 ・めっちゃ息のあったコンビネーションだったなw

 ・熱い戦い過ぎる

 ・美桜ちゃんの勇気すごい


「ごめんね、美桜ちゃん危ない目に合わせちゃって……」


 美桜のもとへと駆け寄った舞夜は申し訳無さそうに謝る。


 美桜は首を横に振った。


「そんなことありませんっ! 舞夜様のおかげで私は戦えたんです……!」


 舞夜は湧き上がる気持ちのままに美桜を抱きしめた。


 遠慮がちに美桜も腕を回す。


 二人は抱き合い、勝利の喜びを分かち合った。


 ・おめでとおおおおおおおお

 ・美少女同士のハグはいいな…

 ・美桜ちゃんの成長速度はんぱねえなw 


 リスナーたちも興奮して、歓喜のコメントが勢いよく流れる。


 そんな中、勝利の余韻に浸る二人の前にひときわ大きな宝箱が姿を現す。


 レアボスの討伐の証だ。


「わぁ……! でっかい宝箱きたー」


「私もこの大きさの初めてみました……!」


「あ、配信はここまでっ! ドロップアイテムについては次の打ち上げ配信で公開するから絶対見てね!」


 ・まじかよw

 ・おあずけされて草

 ・楽しみにしてるよー!


「ねえねえ美桜ちゃん、一緒に開けてみよ?」


「ふふっ、はい、ぜひ!」


 舞夜と美桜は顔を見合わせておかしそうに笑う。


「せーのっ」


 息を合わせ、宝箱の蓋に手をかけた。

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