一般通過JK、年上のお姉さんと同棲していた

「みんな応援ありがとー! 無事勝てました! ぴすぴす」


 ドローンに向かって満面の笑みを決めた舞夜に、リスナーたちも大盛り上がりだった。


 ・おめでとー!

 ・まさか勝てるとはw

 ・めっちゃかっこよかった!

 ・強すぎ!


「今日の配信はここまで! 明日は打ち上げ配信するから来てねー」


 ・おつ!

 ・チャンネル登録したよー

 ・次も見ます!


「あ、そうだ。チャンネル登録してない人はぜひ! あとよかったら高評価もよろしくお願いしますっ!」


 配信終了時に言おうとしていた定型文も無事思い出し、こうして舞夜はイレギュラーたっぷりの初配信を終えた。


 当初は数人だったリスナーも最終的には同時接続数が30人を超えている。


 無名でしかも初回配信としては十分すぎる結果である。


「ん? これって」


 エリゴブの死体はダンジョンに吸収され、その場には古びた腕輪が残されていた。


 あまり高価なものに見えなかったが、ボスドロップには変わりない。


 しっかり回収して帰還の魔法陣に入ると、舞夜は光りに包まれる。


 次の瞬間、目の前に広がるのは探索協会の支部だった。


 探索協会が管理する転移魔法陣を利用すれば、日本中どこのダンジョンであっても移動できるのだ。


 ドロップアイテムの鑑定を受け付けで済ませて、ようやく帰宅する。


 初めてのダンジョン探索は想像以上に大変で、思っていたよりずっと楽しいものだった。


 リビングのソファで横になって間もなく、心地よい疲労感に包まれてすぐに眠ってしまった。



「ただいま。舞夜ー? 起きてる?」


「んん、ふあぁ」


「やっぱり寝てたんだね」


「……あれ、瑠璃ちゃん。なんで」


 舞夜はハッとしたようにスマホに目をやると、時刻は23時を過ぎている。


「やばっご飯なにも作ってない……!」


「舞夜が疲れてるだろうと思って、ほら」


 瑠璃が指さした先、テーブルの上には2人分の美味しそうなお弁当が置かれていた。


「ごめん瑠璃ちゃん。ありがとー!」


「謝らないでいいよ。無事に帰ってきてくれて嬉しい」


 舞夜の隣に腰掛け、瑠璃はふわりと微笑む。


「初めてのダンジョン、どうだった?」


「ドキドキしたけど、リスナーさんも優しかったし、思ってたよりずっと楽しかった!」


「そう、ならよかった」


 舞夜が都内の学校に通うため、一人暮らしをするかどうかで両親と揉めた時期があった。


 そんな折に、すでに都内で一人暮らしをしている瑠璃が一緒に暮らさないかと提案してくれたのだ。


 舞夜と瑠璃の親同士で親交があったために、瑠璃の提案はすんなりと受け入れられた。


 二人暮らしをしてからはや数ヶ月、舞夜と瑠璃の仲は良好で互いに互いを支え合って生活していた。


「瑠璃ちゃんこそ最近忙しそうだけど、大丈夫?」


 舞夜の5つ年上の瑠璃は社会人として働いていて、今日のように日が変わりそうな時間に返ってくることも珍しくなかった。


「心配してくれてるの? でも全然大丈夫だよ」


「……そっか、ならいいんだ」


 学生の舞夜にとって5歳差のある瑠璃は大人だ。


 だから、大丈夫と言われてしまうと踏み込みづらさがあった。


 高校生の舞夜は社会人の世界を知らないからだ。


 少しでもサポートできればと食事や掃除を率先しているが、忙しい日が続いているようでどれだけ助けになれているかわからない。


 そのことが舞夜の心に影を落としてた。


 なにより、瑠璃が探索者時代はもっと毎日楽しそうに過ごしていた。


 その姿を舞夜はいまだに忘れられないのだ。


 舞夜が探索者になろうと決意したのは、瑠璃の背中をずっと眺めていたからだった。

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