一般通過JK、VS エリートゴブリン②

「どや! どう? すごくない?」


 ・え?どゆこと?

 ・さっきまで効いてなかったのになんで

 ・わけわからんw


「ふふん。ただ殴っただけじゃないんだー。これはね――」


 背後からの物音に振り向くと、エリゴブが再び立ち上がろうとしていた。


 おかしい、舞夜の感覚からして完璧に入った一撃はエリゴブの命を刈り取るほどの手応えがあったのに。


 仮に殺しきれなかったとしても致命傷には違いないはず。


 すぐに立ち上がれるなんてありえない。


 目を凝らすとエリゴブの身体を覆うようにうっすらと緑色のもやがある。


 ・ヒール使ってね?

 ・いやいやエリゴブが魔法使うなんてないだろ

 ・ボス特性か……?


 エリゴブに注意をはらいながら、有識者と思われるリスナーのコメントに目を向ける。


 平原ダンジョンのボス特性は探索者と同じ戦闘スタイルになることだ。


 たとえば戦士が挑んだ場合、ボスのゴブリンは剣を扱う。


 魔法使いであれば杖を持ったゴブリンが出現する。


 ただし、魔法は使わず杖で殴りかかってくるだけに過ぎない。


 あくまで戦闘スタイルを真似るだけでスキルや魔法を使ってくるはずがないのだ。


「もしかしてエリゴブだから?」


 ・たしかに平原ダンジョンでレアボスと戦う探索者なんて見たことないな

 ・そりゃE級には荷が重いから普通出直すわな

 ・もしかしてこいつのボス特性ってジョブコピーなのか?

 ・でもモンクのスキル使えたところで……


 舞夜はステータスボードを表示する。


 道中は戦闘と呼べる戦闘などなく確認することなくここまで来てしまった。


 スキル欄には「気の操作」、「治癒(微)」が追加されている。


「治癒、なのかな」


 スキルによって回復したのなら立ち上がれるのも腑に落ちる。


 種がわかればどうってことはない。


 相手の回復が間に合わないうちに追撃を入れればいいだけだ。


 エリゴブが完全に立ち上がる前に、とどめを刺すため舞夜は駆けた。


 瞬間、エリゴブの瞳が怪しく輝くのを察知し足止めた。


 顔すれすれを突風が通り過ぎ、エリゴブが力任せに腕を振り抜いたのだと遅れて気づく。


「やっば、見えなかったな」


 体力が回復していない様子を装った騙し討ちだった。


 さらに、攻撃の速度も今までより上。


「今度は赤いもやもや!?」


 ・エリゴブってそんなに賢かったっけ?w

 ・赤いオーラは気を扱うときのオーラだよ

 ・気の操作って難しすぎて使えず諦めるまでがテンプレなのに


 視界の端にとらえたコメントを読んで、状況を理解する。


「気の操作!」


 舞夜が気合を入れて叫ぶ。


 が、何も起こらない。


 ・突然どうしたw

 ・叫んだあとスンってするのかわいい

 ・コール型スキルじゃないよー


 エリゴブは舞夜の打撃を警戒しているのか、距離を開けてこちらを睨みつけていた。


 舞夜はため息をついて無造作にエリゴブへ向かって歩き始める。


 エリゴブの間合いに一歩踏み込んだ瞬間。


 剛腕が舞夜の腹部を直撃する。


 尋常ではない威力だったようで舞夜の身体は人形のように数10メートル吹き飛ばされた。


 コメント欄は阿鼻叫喚だった。


「けほっ。ちゃんと受けたのに骨イったかも。そのかわり、使い方わかっちゃった」


 吹き飛ばされた先で立ち上がる舞夜は赤いもやをまとっている。


 ・めっちゃ平然と立ち上がるじゃん!?

 ・どうなってんの!?

 ・わけわからんw

 ・やばすぎ、思い立ったって実行するかよ普通

 ・え?どゆこと?なにしたん?

 ・エリゴブ一撃を完全に脱力して受けきったんだよ

 ・脱力って、古武術とかで出てくる?

 ・そうそう、攻撃を受ける瞬間に全身の力を抜いて衝撃を最小限に抑えたんだと思う

 ・舞夜ちゃんわざと吹き飛んだってこと!?

 ・はえーそんな技術が

 ・前見て!来てるよ!


「なんかめっちゃ詳しい人いるじゃん!?」


 自らの身体に打ち込ませたことで舞夜は気の操作を理解していた。


 強化されたエリゴブの一撃でさえ首を傾けただけですかしてみせた。


「さてさて反撃の時間だよっ!まず一発ゥ!」


 エリゴブの顔めがけて振るった掌底。


 人中のあたりをとらえ、木っ端みじんにエリゴブの頭を吹き飛ばした。


「あれぇ!?」


 ・強すぎて草

 ・えっこわ

 ・オーバーキルじゃんww


「うわー! めっちゃ消化不良!!! うれしいけど!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る