#望まぬ再会 5

         ***


 ユリアたちに、エマランサへと向かう指示が下されたのは、オリバーの披露宴から数日後のことであった。


 生け捕りにした賊の頭がもたらした情報によると、【惑星フラーの目覚め】が、ルグテンの隣国エマランサ北部に潜伏しており、ほかの武装勢力などに、武器や魔法の触媒などを横流ししているらしい。


 ユリアたち黒の騎士団の任務は、その無法者たちを追って現地へ赴き、組織を壊滅、両国の国境地帯にてひん発する破壊工作の、これ以上の被害を阻止することだ。


 ただし今回の任務は、単なる賊の討伐ではない。ルグテンとエマランサの正常な国交を継続していく上でも、重要な意味合いを含んでいた。


 加えて彼女たちには、それらの任務を極秘裏に遂行することを課せられた。

 これは、両国間の対立感情や不信、緊張を無駄に高めたくないという、教団上層部の判断によるものだ。


 そのためユリアたちは、エマランサ北部にて新たに出土した古代文明の遺跡の調査に派遣された、教団調査員たちを護衛する名目で参加した。

 ユリアたちが本懐を遂げるための隠れみのとして、都合が良かったのだ。


「おや、ヴィジンさん、あれは何ですか?」


 エドガーは馬車のなかから窓の外を指さし、質問する。

 彼の向かいに座るユリアも、同様に外に視線をやっていた。小ぶりな実を結んだ低木がずらりと並び生える様子から、そこは果樹園だと想像がつく。


「あぁ、あれはいちじくですね」


「いちじく? ミミ、いちじく大好き!」


 と、ミミが無邪気にはしゃいだ。


「ほぅ……しかし、本来なら時期的に収穫はもう少しあとのはずでは?」


 エドガーは、収穫にいそしむ農家たちに目をやりながら、続けて質問した。


「この土地のいちじくは特別でして、一般的な品種と比べて収穫時期が早く設定されているんです。小ぶりながらも、ねっとりとした食感と、強い甘味と風味が特徴なんですよ」


 エマランサ北部でのみ生産されるその品種は特産品であり、高級なブランド品として有名であるとも、ヴィジンはつけ加えた。


「エドガー様、いちじくはお好きですか?」


「うちの隊員たちは、胸に秘めた正義感と同じか、それ以上に、食に対するこだわりの強い連中でしてね。表情や口には出さないだけで、今こいつらの頭のなかは、いちじくのことでいっぱいになってますよ」


 なんて調子の良いことを言うものだから、ヴィジンの笑いを誘った。


 エドガーは非常に弁が立つ男だ。もし騎士になっていなかったら、詐欺師としての道を歩んでいただろうと、冗談半分に自称するくらいにはふざけた男である。

 相手に取り入る能力は、エドガーが団でいちばんだとユリアは認めていた。


「それは良かった。では、のちほど、ご用意いたします。今が旬のいちじくを、ぜひ味わってみてください」


 そう言いながらヴィジンは、エドガーに熱い視線を送り続けた。

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