#望まぬ再会 4
程なくして、迷子のユリアにもようやく迎えがやって来た。
短い歩幅でかつ、すり足気味の独特な歩き方をした、初対面の女性である。
「ふぅ、ようやく見つけましたよ。レガシィ教団所属、黒の騎士団のユリア様ですね?」
早口に聞くその女性は、暗い色合いのフード付きのローブを着用しており、いかにも魔術師らしい風体だ。
「ああ、そうだ」
女性はだいぶ余らせたローブの袖から出した指で、眼鏡をくいっと上げる。
「では自己紹介を……。私は、エマランサ魔法省【古代遺跡及び古代遺物発掘調査部】所属の上級技官兼、外務共同調査機構設置推進室室長代理人補佐官の──ヴィジン・クールと申します!」
長々とした自身の肩書きを、途中でつかえることもなくひと息で言い切った彼女は、満足げな表情をしている。
「あぁ……これはまた、丁寧な挨拶をどうも……」
「団員のほかの皆さんはすでにお待ちですよ。私が案内いたしますので、離れずついて来てください、ユリア様」
指示どおり、ユリアはヴィジンの後に続いた。
「ルグテンより遠路はるばるご苦労様です。魔導列車の乗り心地はいかがでしたか?」
エマランサ東部の地方都市から、北部にあるここ首都ローガンまで乗車した、この国独自の鉄道のことだ。
「音も静かだし、不快な振動もほとんどない。魔法とは素晴らしい技術だな。ルグテンの蒸気機関車とは大違いだ」
「では、ますます気に入ると思いますよ。この国には魔法があふれておりますから」
ヴィジンの早い歩調についていくのは、なかなか骨の折れることだった。彼女の低い身長も相まって、人混みのなかで何度も見失いかけた。それでいて本人は、ユリアのことなどお構いなしにすたすたと歩いていってしまうものだから、本当に人を案内する気があるのかと疑いたくなる。
とはいえ、そんな不親切な親切心に導かれて到着した駅前広場には、見知った三人の顔ぶれが、並んでユリアのことを待ち構えていた。
知らないものばかりがあふれ返る異国の地において、知っているものを発見したときの安心感はなんとも言いがたい。彼女の心細さを、いくばくか解消してくれた。
「よお、待ってたぜ。ユリア、あんた首にベルでもつけたほうが良いんじゃねえか?」
オリバーがニヤニヤしながら、さっそく迷子を冷やかしてきた。
「うっせ!」
「それとも、首輪とリードが欲しいか?」
「おい、新婚野郎、もう一度ふざけた口を利いたらどうなると思う? そのリードでお前の首を締め上げてやるからな」
おぉ怖い怖いと、オリバーは反省していない様子で肩をすくめた。
彼のとなりに立つエドガーが咳払いをする。
「あぁ、諸君。なにか忘れてないか? 異邦の土地だから浮かれるのもけっこうだが、俺たちは仕事をしに来たんだぞ?」
「だそうだぞ、ユリア」
オリバーがすかさず、子供のじみた追撃を加える。
「私は浮かれていようが、やるべきことはしっかり出来る。だがお前は違うだろ、オリバー?」
「ああ、もう!」
業を煮やしたミミが二人の会話に割り込んだ。
「ヴィジンさんの前で恥ずかしくないんですか、二人とも!」
「いいや」
「全然……」
オリバーとユリアは、変なところでは息がぴったりだった。
「んな……!?」
謎の団結を見せつけられたミミは、もはやそれ以上はなにも言う気にすらなれなかった。
一方で騎士団から少し離れた位置に立っていたヴィジンは、愛想笑い一つ浮かべずに話を切り出す頃合いを見図らっている。
「現場となる古代遺跡へは、我々魔法省が手配した馬車を利用しての移動となります。では参りましょうか」
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