#望まぬ再会 3


 それから少しのあいだ、二人は他愛もない会話を重ねていると、少女も落ち着きを取り戻したようで、涙は収まっていた。


「おねえちゃんも、まいごなの?」


 不意打ちぎみに浴びせられたその言葉に、ユリアはうっと詰まってしまう。


「う、うん? そんなわけ……」


「おとなのひとなのに?」


 その追撃はユリアにとっては致命的だった。彼女の自尊心は深く傷ついた。子どもとは、時に悪意もなく残酷なことを口走ることがある。


 事実を認めたくないユリアは、肯定も否定もしない。


「どうしてそう思うんだ?」


「だっておねえちゃん、かなしい顔してるんだもん。なんだか、お葬式のときの顔みたい」


 しかしそれは、物事の隠された本質を見抜き、しばしば大人ですらハッとさせる一面も備えていた。


 ユリアは一瞬言葉を失った。


──迷子……


「迷子か……ある意味そうかもな……」


──もしかしたら私は、リリィを失ったあの日から、ずっと迷子のままなのかもしれない……


 ユリアは無意識のうちに、深いため息を吐いた。


 いまだ往来が盛んな人の波に目を向けていた少女が、何かを発見して、突然表情を明るくさせた。


「あっ、バックーロお兄ちゃん!」


 二人の前に現れたのは、紫がかった色をした長髪を一つにまとめた、やけに色白な、すらりとした体型の男性だ。


「おぉ、エマ……!」


 安堵の表情を浮かべ、駆け寄ってきた彼は、怪我があるのか左足を引きずっていた。両手を広げた彼の胸に、少女は勢いよく飛びついた。


「心配しましたよ。勝手にどこかに行ったらだめでしょう」


 起伏のない淡々とした話し方の彼は、少女のことを叱りながらも、ぎゅっと抱きしめてあげていた。


「うぅ、ごめんなさい……」


「怖かったでしょう?」


「ううん、お姉ちゃんと一緒だったから大丈夫」


 そこは、、の間違いでは? と、少女の微笑ましい言い違いに、ユリアは苦笑する。


 そんな二人の様子を見守っていると、血相の悪い保護者が、ユリアに顔を向けた。


「うちの子が世話になったようですね。ありがとうございます」


 やはり彼の話し方には感情の色がない。一見すると紳士的だが、どこか冷たい印象を感じてしまう。


「ほら、あなたも言うことあるでしょう?」


 その男は、胸の高さに抱き上げた少女にも促す。


「お姉ちゃんありがと」


「いや、私はなにも……」


 ユリアの謙遜けんそんを聞きながら、保護者の男性は、彼女の胸元にある教団の紋章をさりげなく見て、鋭い切れ目を一瞬細めたあと、すぐにまた無表情に戻った。


「では、俺たちはこれで失礼します」


お姉ちゃん、バイバイ!」


 男性は、やはり左足を引きずりながら、少女を連れて足早に離れていき、人の波に紛れてすぐに見えなくなった。

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